葉月晴夏がナッカと呼ぶ少年は、小学校入学時から中学2年生になった今現在まで、なんとない関係性を保ってきただけの存在だった。が、とあることから晴夏は衝撃の事実を知ってしまう。彼が自らオーディションを受け、俳優になっていたことをだ。その行動力は自分が無能だと知る彼女が棄ててしまったものであり、なにより眩しいもので……
顔見知り程度の関係性だった晴夏さんとナッカくん(本名は本編で!)。対照として描かれたふたりの関係性に目を惹かれました。
晴夏さんは自信を失い果て、いろいろ諦めてしまった人です。そんな彼女が淡い親近感を抱いていたナッカくんが自分の意志で光を求めて進む人だった――その事実が深々と彼女の心を抉るわけですね。でも、このマイナス心情が先に続く彼女の選択や決意を輝かせて、最終的にはふたりの関係をまた変える。ここへ至ってはたと気づかされるのですよ。この作品がなにより純粋な青春ものだということを!
あなたが忘れていたなにかを思い出させてくれる、そんな一作です。
(「酸いか甘いか 初めての恋」4選/文=高橋剛)
同じ学校に通っていた、幼い頃からの「顔見知り」。
少女と少年。友人ですらない二人のささやかな触れ合いを描いた物語に、胸の奥が静かにあたたかくなりました。
人は誰でも、いくつもの仮面を持っています。
誰かにとっての信頼できる友人は、別の誰かにとっては嘘つきな裏切り者かもしれません。
自分の言動や心の内を全て曝け出しても、何一つ恥ずべきものはないと自信を持って言える人は、そう多くはないでしょう。
人の善し悪しは、相手や立場によっていくらでも変わってしまう。
善い悪いという曖昧で不安定な理由ではなく、ただあなたの存在そのものが光なのだと。そう伝えずにはいられない「誰か」がいることは、とても幸福なことだと思います。
この物語が終わった後も続いていく彼女たちの日々が、幸せな光に満ちていることを願いたくなる作品です。