相対する僕と彼女の感傷
山猫拳
◆
***SIDE H***
来週から中間考査が始まる。数Ⅱの授業が終わると同時に、後ろの席に座っていた
「どこが分からなかった?」
「分からなくはないけど、一人だと難しいから」
振り返って聞いた僕を長い
素直じゃない人。
――――――
一つの机の上に、お互いがノートと教科書を開いて問題を解く。途中から
ノートには応用1(2)の途中まで計算式が書いてある。緋音の動きに意識を取られ、周囲の
もうすぐ夕食の時間だというのに、どうしてファミレスにはこんなに人があふれているんだろう。
コンと音がする。
「つかれた」
「ドリンクバー、いく?」
緋音はふるふると首を横に振る。問題のどこで
「ううん、
僕は
良くわからない人。
「なんで?」
「なんか、頭良くなれそう」
「人の眼鏡かけてると、眼が悪く―――」
悪くなる、と言い終わらないうちに緋音の白くて細い指が僕の眼鏡を顔から引き
黒縁のウェリントンはサイズが合っていなくて鼻の途中までずり下がる。
「ほとんど度が入ってないから平気」
眼鏡の端に手を添えて、レンズ越しに僕を見る。ヘンな言い訳をする人。
「眼鏡、好きなら自分の作ればいいのに」
少し目を細めて彼女の顔を見つめる。
眼鏡が似合う、僕のすきなひと。
***SIDE S***
中間考査も期末考査もきらいだけど、
「どこが分からなかった?」
ただ一緒に勉強しようって言っただけなのに、
「分からなくはないけど、一人だと難しいから」
一緒に勉強するのが好きだとは言えないから、言い訳がましく
声を立てずに笑う人。
――――――
自分からファミレスで勉強しようと言ったのに、周りの音が気になって集中できない。はす向かいに座っている
シャーペンの先からは
何だか盗み見ているみたいで申し訳ない気持ちになって、教科書で顔を隠す。教科書の下の
集中できていないのは私だけで少し心に波が立つ。
音を立てて教科書を置くと、伊月の目が私を
「つかれた」
「ドリンクバー、いく?」
黒い縁の奥から二つの瞳が私を
真面目で、少し困らせたくなる人。
「ううん、眼鏡貸して」
「なんで?」
またかと言うように息を
「なんか、頭良くなれそう」
「人の眼鏡かけてると、眼が悪く―――」
忠告は最後まで聞かずに、私と彼を
優しい人。
「ほとんど度が入ってないから平気」
レンズで少しぼやける世界では、
「眼鏡、好きなら自分の作ればいいのに」
私が眼鏡を好きだと思っている、とても鈍感な私のすきなひと。
「別に、好きじゃないし。これが好きなの」
了
相対する僕と彼女の感傷 山猫拳 @Yamaneco-Ken
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