めがね女子

クロノヒョウ

第1話



 めがねあるあるらしい。


 めがねをどこに置いたか必死で探した挙げ句自分の頭にかけていたとか、ラーメンを食べる時は湯気でくもって食べづらいとか。


 そういわれてみればマスクをつけている人のめがねがくもっているのを何度か見かけたこともあったな。


「田代、食わねえの?」


「あ? 食うよ、いただきます」


 学食で席につき仲間と食べようとした時に俺の視界に入ってきたのが窓際にひとりで座っている女の子だった。


 女の子はA定食を頼んだらしい。


 今日のA定はうどんとミニカツ丼のセットだ。


 その子がうどんを食べようと顔を近付けた。


 すると一瞬でかけていためがねがくもってしまった。


 女の子はそのめがねをいったんおでこの上まで上げた。


 うどんを口に滑らせミニカツ丼のどんぶりを持つと顔のすぐ目の前まで持ってきて凝視していた。


 おそらくめがねがないからよく見えていないのだろう。


「……でさ、今日の新歓コンパなんだけど」


「あ、うん」


「可愛い子が多いらしいぞ」


「へえ」

「やったな!」

「楽しみぃ」


 仲間は盛り上がっているようだが、俺が興味を示したのは新歓コンパではなくめがね女子だった。


 彼女も新入生だろうか。


 地方から出てきているのか素朴な雰囲気がなんとも可愛らしかった。


「田代は彼女と別れたばっかだろ」


「こいつはほっといても女の子が寄ってくるからずるいよな」


「俺? そんなことないよ」


「田代の元カノってみんな綺麗系だもんな。やっぱああいうのが好みなわけ?」


「んー……」


 窓際に目をやった。


 女の子は食べ終わったのか今度は周りをキョロキョロし始めた。


 カバンの中を覗いたり足もとを見たり。


 ああ、めがねを探しているのか。


「ははっ」


 俺はその姿を見てつい笑ってしまっていた。


 めがねあるあるの現場を一気に見せてもらったのだ。


「何笑ってんだよ田代」


「あー、いや、ちょっとごめん」


 俺は席を立つと女の子の方へ一直線に歩いていった。


 今日から俺の好みはどうやらめがね女子になりそうだ。





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