第二話 白昼堂々乗り込む
女は直感的にK社が自分に挑戦状を突きつけていることを感じでいた。そうでなければ、役員とはいえSに何も処分が下らないのは不自然だからである。
女はグレーのスーツとヒール姿でトランク一つだけを持って、再びK社に入った。それも白昼堂々とである。小細工はいらないと腹を括ったのか、役員S宛ての訪問者として面会記録書に「犀川よう」と書いてエレベーターに乗り込んだのである。
案の定、あの部屋には鍵が掛かっていなかった。周囲には誰もおらず監視カメラすらない。
「本当にナメた態度ね」
女は何の苦労もなくドアを開けて中に入ると、そこには一人の少年が立っていた。
「はじめまして。お嬢様」
「まあ、ボウヤのわりにレディに対する――」
言葉を続けることができなかった。少年が眼鏡を外した途端、女はそのままの姿勢で身動きがとれなくなったのである。
「驚きましたか? 僕はかくよむの鳥の護衛の者です。先日は非番でお会いできませんでしたね。”なにわ”さんはお元気ですか?」
返事を期待してか、少年は外していた眼鏡をつける。すると女の身体は再び動くことができるようになった。
「――メデューサみたいな眼を持っているのね」
「さすが小説家ですね。すぐ想像がついたようで。そうです。僕は裸眼で相手を見ると、相手の眼を通して脳神経にアクセスできるのです。といっても一時的に身体を動かなくする程度ですけどね」
「ふーん。それで普段はめがねをして力を抑えていると?」
「そうです。あなたのファンタジー小説の主人公にでも使ってください。読者が喜びますよ」
「あいにく、わたしは恋愛小説作家なのよ。ファンタジーはアンタたちでお腹一杯よ」
少年の後ろでみやびは黙って二人を見ている。女はそれが気に食わないのか、猛毒を塗ったダーツの矢を放とうとするが、
「犀川さん」
女は少年の声につい、顔を向けてしまい、めがねを外した少年にまた身体を止められる。
「だめですよ。かくよむの鳥を害そうなんてことは」
圧倒的な余裕を感じているのか、少年は女にダーツの矢を取り上げると、再び眼鏡を外す。
「ほら、折角の美人もだいなしですよ」
少年が前に立った瞬間を、女は待ってましたとばかりに少年に抱きついた。
「んん!?」
女は驚く少年の眼を手でふさぎ、抱きついたままキスをした。そのキスは大人のキスであり舌が蠢いているのが少年の口元からわかる。
「……余裕を出すのは十年早かったわね。ボウヤ」
しばらく続いた情熱的なキスの後、少年は眠るように倒れ込んだ。
「口の中に睡眠薬を仕込んでおいてよかったわ。ボウヤはス〇ーカー文庫よりもハーレーク〇ン文庫で女のことを勉強しておくべきだったわね」
女は仰向けに寝ている少年に、そっとめがねをつけてあげた。
◇
「さすがですね」
「わかっていたのなら、BANしなければよかったのよ」
「それはできません。あなたたちのような生意気な作家をBANしたエネルギーで、あたしたちかくよむの鳥は生きているの。ついでに言えば、そうされた怨嗟という莫大なエネルギーを変換して、仮想通過をマイニングしてお金を得ているのだから。これで我がK社は世界の裏側を支配してきたのよ」
「鳥のくせによくしゃべる」
女はトランクからP90を取り出し連射する。激しい衝撃音が部屋中に響き渡る。
「あたしを穴だらけにしたって無駄よ! かくよむの鳥はいくらでもいるわ! 状況は何も変わらないの! 愚かな女ね!」
銃弾で穴だらけになりながら、みやびは叫ぶ。女は構うことなく、みやびを蜂の巣にしていく。
「わたしは愚かな女よ。カ〇ヨムなんかで”なんちゃって小説”を書いて自尊心を満たしているような寂しい女よ。だけどね。それでも小説を書くこと楽しみにしている会員たちをエサに肥えていくアンタたちを許すことはできないわ」
P90を投げ捨て、ボロボロなったみやびを掴む。なにわと同様、腹の奥にはRaspberry 〇 の最新モデルの基板が入っていた。
「愚かよね。あなた。こんな末端を消したって、本体には何の影響もないのに」
「そうねその通りね。だけどね、わたしはアンタたちかくよむの鳥を消すことができればそれでいいの。何度でも何度でも、現れる度に消してあげるわ」
「くだらないことを」
「そうね。生活の合間にカ〇ヨムやっているような女ですもの。くだらなくて上等だわ」
女はくたびれ果てた姿のみやびの頬にキスをすると、みやびから基板を抜き出してから、葉巻用のターボーライターでみやびの身体を燃やした。
(終)
続・かくよむの鳥 犀川 よう @eowpihrfoiw
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