続・かくよむの鳥

犀川 よう

第一話 「かくよむの鳥」は生きていた!

「お可哀そうに」


 K社ビルの十階にある役員しか入ることのできない部屋で、丸々と肥えた鳥が溜め息を漏らしてから呟いた。細身のめがねをかけた少年はその鳥を前にして憮然とした表情で立っている。


「”なにわ”も口が達者な割に、あっさりと消されてしまったわね」


「僕は非番だったとはいえ、迂闊でした。まさか直接タマを取りにくる人がいるなんて」


は全国の会員を養分としているのよ。IPやログをチェックして会員を捕食しているのだから、恨まれてもしかたがありませんわ」


「僕は小説なんて書いたことはないけれど、そんなに魅力的なんですかね。ありもしない話を書いて他人に見せる行為が。結局、あなたたちのエサになるとも知らないで、よく妄想を垂れ流していられるものだ」


 少年は理解できないことを静かに頭を振って「かくよむの鳥」に伝える。


「さあ、人間の考えることなんてあたしにはわからないわ。だけどあの女、かくよむの鳥が何匹もいることまでは想定していなかったようね」


「みたいですね。調べたらあの女、どうもライバル会社であるSN社やKU社から援助してもらっていたようです。マシンガンのFN P90まで持っていたそうですよ」


「おお。こわいこわい」


 かくよむの鳥の”みやび”は羽をパタパタさせながら怖がるしぐさをする。めがねの少年はそれを無表情な顔で見ている。


「いずれにせよ、今度あの女が来たら、僕の眼で”止めて”みせますよ」


「そうね。期待してますわ。あなたの”その目”には、いかなる人間も逆らえないのですから」

 

 少年は眼鏡をクイッとさせながら、ほんの少しだけみやびに微笑んだ。


 ◇


「かくよむの鳥は何匹もいる!?」


 女は自分が始末した鳥を思い浮かべながら驚きの表情を浮かべた。女のパトロンであるライバル会社KU社の執行役員Oは、ただ黙って頷いた。


「あいつらはどうも、本当の意味ででしかないらしい。本体はK社地下にあるクラウドサーバーだ。かくよむの鳥など、人間と接するただのI/Fでしかない」


「はー。じゃあ、あの関西弁を消しても、また新しいかくよむの鳥が現れるってわけね?」


 Oは肩を竦めて頷く。KU社の一階にある喫茶店は各部門の打合せ場所としても使われているようで、とても賑やかである。


「まあ、今はK社のSのアレを咥えて離さないようにしておけよ。K社に侵入できなくなれば、状況は更に困難になるからな」


「社内セキュリティーでわたしのことなんでバレバレでしょう。今更、意味があるのかしら」


 女はそう言ってからコーヒーを飲み干し、続ける。

 

「まあでも、恨みを晴らしたいのは変わらないわ。奴らがマトリョーシカなのかK社の影法師なのかは関係ない。目の前のかくよむの鳥を消していくまでよ」


「私には意味があるとは思えないがな」


「わたしにはあるのよ。これ以上BANされて消えていく作家たちを増やしたくないの。本体であるサーバーへの対策、お願いするわね」


 女は立ち上がろうとするが、中腰のままとまる。


「KU社のすぐ近くにある焼き鳥屋、今度連れていってよ。あの鳥を持参するわ」


「――食べられるといいがな」


 万事ぶっきらぼうな態度だったOは、少しだけ口元を緩ませた。


(続)

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