【KAC20248】あなたさえいたらいい

肥前ロンズ

魔女とめがねのお姫様

「アタシが視力補正の魔法、掛けてあげるけど」


 素っ気なく魔女は、本を読みながら言いました。そんな彼女を、私はめがねを通して見つめていました。

 森の魔女は冷たく、人嫌い。そんな噂は嘘です。彼女の功績を妬んだものが、あることないこと吹き込んだせいで、彼女は森に追いやられました。

 争いが嫌いな魔女は、それ以来余計なトラブルに巻き込まれないように、そのまま森に住み始めましたのです。

 それでも、こうして突然来る私を出迎えてくれます。

 仮にも王女である私が来れば、やっかみを受けることもあるだろうに、こうやってハーブティーを用意してくれるのです。


 でも、自分から魔法を使おうか? などと言う彼女は、初めてでした。どうして? と私が尋ねると、彼女はゆっくりと口を開きました。


「……ほら、あんた、お見合い上手くいかなかったんでしょ。めがねのせいで」


 ああ、と私は納得しました。

 あの隣国の王子は、初対面早々「めがねを掛けた女はダサい」などと言ってきたので、私から断ったのでした。他者から見ればめがねのせいで上手くいかなかった、と思うかもしれませんが、めがねのおかげで相手の人柄がわかったのです。

 私がそう言うと、「悪かったわね」と、バツが悪そうに彼女が謝罪しました。


「あんたはこんなにも良い女なのに、改善しろ、みたいなこと言ってしまった」


 忘れて、と彼女が言うので、私はそんなことないですよ、と言いました。


 王女ではなく、ただの人間として心を砕いてくれる彼女に、私は恋焦がれてしまいました。


 私はそっとめがねを外します。

 私の視力はひどいものです。外してしまえば、モノは輪郭を失い、誰が誰だかわかりません。


 だけどこうして、見たいものに合わせてめがねをかざしたら、フレームの中に閉じ込めることが出来る。

 彼女はちっともこちらを見ていないのに。なんて、自分勝手な恋なのでしょう。


 それでも、目の前の彼女さえこの視界にいたら、私はそれだけで良いのです。

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