本編4
「 あ ご お も !!」
ビリビリと大きな声が響いた。
ういの声なのか、雷なのか、信じられない声だった。
怪物たちはピタっと動きを止めた。
そして、怪物たちは、腰にぶら下げた巾着から何かを取り出して、その何かを体に纏わせた。
怪物たちは見る見る普通の人間の男女になる。
みんな、オレンジ色のユニフォームを着て、スタジアムで試合のある日にあちこちにいるエスパルスのサポーターになった。
「うい様の羽衣は?」
さっきまで虎の怪物だったおじさんが、普通の声でういに尋ねた。
え?羽衣?
ういは、言われて、はっとして僕を振り返る。
「せた、ういのあごおも、もってる」
そう言われて、はっとなった。
僕は、エスパルスのユニフォームを持っている。
僕のBMXの前輪に絡み付いたやつだ。
慌てて背中のディバッグを下ろすと、中からユニフォームを取り出して、ういに着せてやった。
ブッカブカだ。
でも、ぶかぶかに見えたユニフォームにピッタリ合うようにういの体が大きくなって、
ういは、僕と同じ年くらいの女の子になった。
そうか、あごおもって羽衣だったのか。
「あたしのひいおばあちゃん、三保に遊びに来て、羽衣隠されちゃって大変だったんだって。知ってるよね、三保の羽衣伝説」
大きくなったういは、ちゃんと喋って、にっこり笑った。
三保の松原で羽衣を隠されて帰れなくなった天女の伝説。
それからたくさんの時間が過ぎて、異形の天人たちは人間に化けられる羽衣を時代に合わせた服にした
着物だったりコートだったり。
そして、今の羽衣はエスパルスのユニフォームなんだって。
みんなで羽衣を脱いでエスパルスの
羽衣を持ってたから、僕のBMXも走りもいつもより速かったみたい。
そして、異世界人のみんなから見れば、僕は、羽衣を盗んで、ういを誘拐した人間だ。羽衣伝説みたいに。だから襲われたんだ。
ていうか、あの恐ろしい唸り声、
「な、ういは、人間?」
おそるおそる聞くと、ういは首を振った。
「この世界の生き物じゃないから、羽衣を脱ぐと、またチビっ子に戻っちゃうけど、あたしはいずれ人間が天女って言うくらいのすっごい美人になる予定」
「びじん?!」
僕が驚くと、ういは少し拗ねた顔をした。
その時、伊豆半島の影から太陽が顔を出した。夜明けだ。三保の松原は一気に明るくなっていく。
行く筈で行けなかった灯台が朝日ではっきり見えた。
怪物だった人たちも朝日を眩しそうに見て、おーとかキレイとか口々に歓声をあげていた。
「晴太がエスパルスの選手になる頃に分かるよ」
どうやら、僕は、ういのために、まだまだ頑張らないといけないみたいだ。
おしまい
オレ!三保の松原、突っ走れ!! うびぞお @ubiubiubi
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