本編3

 篝火の周りに人がたくさんいた。

 

 いや、


 人というより人のカタチをした生き物。

 篝火に照らされて、ぼうっと光ってるたくさんの怪物。




 牛の角と盛り上がった筋肉の塊のヤツ


 虎柄縞模様のトゲの生えたヤツ


 全身に角が生えてる鬼っぽいヤツ


 嘴のヨレた大きな鶏っぽいヤツ


 蝋が全身に流れてるヤツ


 目玉模様の蛙みたいなヤツ


 溢れ落ちる毛虫が全身に集っているヤツ


 透けてる体に蔦が絡まってるヤツ


 ヤツ!ヤツ!ヤツ!!




 お父さんに買ってもらった妖怪辞典に載ってない!





「せた、あごおも」


 ういの声に僕はハッとした。

 ういは、バケモノたちの方を指差して、アゴーモを探しに行こうと言いたげだ。


 ダメだ、逃げよう!


 僕はういを抱っこして、BMXにまたがった。

「うい、しっかり捕まって」

 ういは頷くと、僕の首に両手、腰に両足を巻いて抱き付いた。


 意外に力がある。


 僕は静かに、BMXを方向転換させる。

 灯台の方は博物館の向こうで行き止まりだ。こっそり海沿いに松原を抜けて、大学と高校の裏を抜けて国道に出る、あとは家までダッシュ。ルートを決めて僕は静かに静かにペダルを漕ぎ始めた。

 篝火の丘にいるバケモノの群れの死角に紛れるように。


 地響きみたいな声は怪物らが歌ってる。あの声から離れよう。逃げるんだ。




 ゔ ー い゛ぃー!


 背中の方から恐ろしい声と、どばばっという砂を蹴る音がした。


 見つかった!!


 ペダルを踏み込む。タイヤが砂に沈んで焦ったけど、BMXは砂を噛みながらもスルッと前に進み出す。びっくりするくらい自然にスピードが出た。

 これなら逃げれる。



 蛇みたいな細長いヤツが僕の前に飛び出てきた!

 避ける。

 フェイントだ、右に行くように見せて左にハンドルを切って振り切った。でも、そのせいで、BMXは進みたい方向と逆に灯台の方を向いてしまう。どっかで切り返せばいい。


 なぜかBMXは飛ぶように走る。


 その後ろから、ゔーぃ と唸りながら、ヤツらが何匹も何匹も僕とういを追いかけてくる。




 走る僕


 怪物の群れ


 松原にもうもうと砂煙が立つ




 それは、きっと百鬼夜行だ






 時々蔓みたいのがひゅいっと伸びてきて、僕たちを捕まえようとするけれど、かわす。


 スピードを上げて砂浜の外れにある滑走路にBMXが飛び込む。


 その時、風切り音がして、


 僕はういを抱えたまま、BMXから転げ落ちた。

 転がりながら見えたのは、後輪を蔓に引きちぎられたBMXだった。


 ういだけは守る!

 行けオレ、せーた!!


 僕は腕を使ってういが地面とぶつからないように踏ん張る。右手でういを抱えたまま、左手を地面に着いて立ち上がると滑走路を走り出した。


 ういを抱えているのに、火事場の馬鹿力なのか、いつもよりずっと速く走ってた。


 でも、唸り声と足音はどんどん近付いてくる。


「ぐあっ」

 遂に、毛の生えた長い腕のようなものが、僕の胴に巻き付いて、後ろに引っ張られた。

 その反動で、ういが、僕の腕の中から転がるように落ちた。


「うい!?」


 ういを心配する間もなく 身動きを封じらられて跪いた僕は怪物どもに囲まれていた。殺されて、食われる。おしっこ漏らしそうだ。



 でも、そんな僕を庇うように


 ういが僕の前に立った。










つづく

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