第13話 桜色スクランブル
昼休み開始直後、昼食のため食堂に向かう際、出雲嬢にあったので、同様の質問をしてみると、
「先輩はすごくかわいいです。男の子に見えようがありません」と即答された。
ただ、出雲嬢は結構身内びいきなところがあるので、意見は鵜呑みに出来まい。
まあ、お世辞にも容姿を褒められると悪い気分はしないな。
今日は食堂内の席につくことでき、昼食を取り始める。
僕は例によって昼食のサンドイッチをかじりつつも、出雲嬢と向かい合った。
出雲嬢も同じく卵サンドを口に入れて咀嚼した。どうやら僕にあわせて今日はサンドイッチを作ってきたようだ。
「きっとあいつが何か言ったから、先輩気にしてるんでしょうけど。頭がどうかしてる人の言動は気にしない方がいいですよぉ」
あいつとは番長のことだろう。
確かに出雲嬢のいうとおりだとおもうのだが、一抹の不安がぬぐえないので困っているのだ。
「私思うんですけど、あいつ桜子先輩のことが好きだったじゃないですかぁ?だからあんなに、先輩のことをつけまわしたんですよ」
珍しく、強い口調で出雲嬢が断言する。
う~ん。それはないだろう。なぜならば、番長は最後の最後まで僕を女子とは認識していなかったからだ。
しかし、意外だ。この子まで、恋愛をからめて事態を判断するとは……。
田心嬢ならばこういった発言も理解できるのだが……。
然るに真相は、番長に聞いてみるしかない。
ただ、今となっては、番長がどの学校に転校したかは知る由もない。
真相は藪の中ということになりそうだ。
ふと今思い出したが、番長は出雲嬢に対して謝意を示していない。
律儀な番長としては、意外だ。
突然、食堂内が水を打ったように静まり返った。
前と同じく、弊衣破帽、学ランに下駄履きというバンカラファッションの番長がのっし、のっしと食堂の入口から侵入して来た。
転校したはずの番長は、まっすぐ僕と出雲嬢に向かって、歩み寄ってくる。
当然、食堂には番長の行く手を塞ぐ生徒はいない。皆あわてて行く道を開けた。
なぜか、番長の後ろには田心嬢がいた。
どうやら、僕と出雲嬢がここにいると、番長につげたようだ。
僕が視線を向けるとガッツポーズをとる田心嬢。その意図は図りかねるところがある。
番長は、無言で僕と出雲嬢の席に歩み寄る。
あわてて、臨戦態勢をとり、席を立とうとする出雲嬢を僕は押しとどめる。
どうやら今回は戦おうする気はないようだ。
「忘れものだ。うけとれい」番長のだみ声が食堂を震わせる。
番長が僕に投げてきたものを受けとると、僕が前に屋上で壊された髪飾りだった。ちゃんと左右二つある。
わざわざ探して買ってきたのか……。相も変わらず律儀なことだ。僕は感心した。思わず、髪飾りを買う番長を想像してしまった。なかなか非現実的な風景だ。
「それともう一つ忘れものだ」番長は、そういうと、出雲嬢にすまなかったな。と頭を下げた。突然の事態に出雲嬢はついていけず。
またもや固まっている。
僕は番長に転校したのでは? と尋ねた。
「いかにも、俺様はこの学校を去った。
しかし、忘れものを思い出し、借りを返しにきたのだ。約束だ。これ以降貴様にはかかわりあわん。貴様こそ、まさに漢の中の漢だ。俺様は貴様に敬意を表し、約束を守ろう」
僕は思わず、自分の外見のどこらへんが漢に見えるのかと聞いていた。
「決まっている。貴様の性別や、外見などは関係ない。重要なのは心だ。俺様には貴様の心は漢にしかみえん。しかしながら貴様が女だったとは。心底おどろいたぞ」
番長としては最高の賛辞なのだろうが……。僕にとっては複雑な心境だった。相も変わらず勝手に物事を決め付けるものだ。
「それとこれだ。俺が壊したものだ。受け取れい」番長は僕に何か小さいものを投げてよこした。手のひらで捉えたそれは一対の髪飾りだった。壊されなかった髪飾りは返してもらったが、わざわざ新品を買い直してくるとは思わなかった。一応礼を言おうと口を開くが、僕の言葉を待たず。番長は泰然と食堂を去って行った。わざわざ同じものを探してくるとは思ったよりも律儀な話だ。
出雲嬢を見ると、あまりの事態に目を丸くしていまだに言葉を発せずにいるようだ。
相変わらず、遅刻の件で先生から呼び出されているらしい田心嬢は食堂には来ていない。
次に会ったとき、この顛末をどう伝えようか……。
僕は伝えるべき話を脳内で列挙せず、深いため息をつくのだった。
桜色スクランブル 海青猫 @MarineBlueCat
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