色鮮やかな思い出話

花京院 依道

鳳凰堂のミドリガメ

 これは今から〇〇年前、ゴールデンウィークに家族で京都へ遊びに行った時のお話です。


 行き先は『丹土の赤』と『輝くばかりの金』がとても美しい鳳凰堂のある世界遺産、平等院。


 庭園は8時30分から入れるということで『7時までには着いておきたい』と言い張る夫に急かされて、深夜3時、まだ辺りが真っ暗なうちに自宅を出発することになりました。


「3時までに出発したかったのに10分も遅れた! 俺は『着替え』も『準備』もすぐにできたぞ!」


 夫はそう言って、私の手際の悪さを責め立てます。

 しかし私の場合、まだ小さな息子ちゃんのお世話をしながらですので、そんな予定通りにはいきません。


 それに、ナビの到着予定時刻は6時25分となっています。


「そんなに慌てなくても……」


 私がそう言い返すと、『自分はいつも最悪を想定して行動しているんだ!』と、少々キレ気味に言われてしまいました。


 むぅ、そんなに開園時間にこだわらなくても……


 色々と納得はできませんが、せっかくの行楽です。

 これ以上、空気を悪くするのは良くないと思い、その場は私が引くことにしました。


 そして車を走らせること4時間半。日は昇り、辺りはすっかり明るくなりました。


 道中、事故による渋滞に巻き込まれたことにより、到着が予定よりかなり遅れてしまいました。


 やっと到着した平等院。その駐車場に車を停めながら『時間通りに出ていれば渋滞に巻き込まれなかった!』と、ご立腹な夫。

 そして、ちょっと乱暴な感じに車から出て行きます。


 夫のその言葉にムッとしながら、私も車を降りました。

 そして夫の後ろ姿を睨み……、ある違和感に気が付きました。


 セージグリーンのアウター、エバーグリーンのパンツ、モスグリーンの靴にオリーブグリーンの鞄……


 ぜ……全身『緑色』!?


 よく晴れた青空の下、鳳凰堂の赤と金、そこに全身緑色の夫……


 ワッハッハ! 何?その服〜!

 おおっと、恥ずかしいから近寄らないでね〜。


 どうやら、好きな服ばかり選んでお構いなしに着た結果、自身でも気付かないうちに全身緑尽くしになっていた模様。


 とても大笑いさせていただきました。

 おかげで、車中での怒りは綺麗さっぱりと無くなりました。


 おしまい!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

色鮮やかな思い出話 花京院 依道 @F4811472

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ