第121話 帰り道でトラブルってマジですか?



 一難あって、……いやもっとたくさん難はあったか。

 それはともかく、これでやっと家に帰れそうだ。

 念願のベットとの対面である。


 ……その前に親との会話という避けられない試練があるのを除けばの話だが。

 まあさっき覚悟は決めたし、最悪……異世界とかダンジョンに住むって選択肢もあるわけだ。

 あまり気にしないでおこう。


[スキル『試練の極意Ⅰ』、『簡易住居レベル1』を獲得しました。]


 あいも変わらず通知はいつも通りである。

 簡易住居はありがたいかも。どのくらいの広さかは分からないが、住む場所を用意出来るってだけで随分気が楽だ。


[簡易住居はレベル1の状態では六畳間程の広さです。最低限の空間は確保できます。しかし、レベル1では一切の設備が存在しないため、事前に用意が必要です。]


 なんか家に住めなって簡易住居に住む前提で話を進めてないか?

 正直ここまで煽り散らかされると感動まで感じられるレベルだぞ。

 そういう嫌味なお節介はやめてくれ。


 

 そんな感じで、家に着いた後の事を歩きながら思案していると、突然妙な違和感に襲われた。

 かと言ってそれ以外の変化があるかと言えば無い。

 あれ? 俺の気のせいだったか?

 ……いや、絶対何かある。

 物凄く嫌な予感がする。

 だっていつもこういうときって悪い方に事が進むじゃないか。

 毎度ながら自分の幸運値との兼ね合いのなさに呆れてくる。

 全然幸運じゃないじゃん。


 ……やっぱり何か変だ。

 うん、いつもの……帰り道だ。

 でも何か……あれ、この感じ何処かに似ているような……


[特殊イベント『時死ときしにの市街』が発生しました。]


「やっぱりか。こんなすんなり帰れる訳ないもんな。……ははっ……はぁー」


 ……というかなんだ特殊イベントって。

 シナリオでもクエストでもない。

 また新手のやつか?


[魔力の歪みによって生じる突発的な現象のことです。]


 あ、そうですか。別にその情報必要ない。

 それよりも打開策くれよ。

 俺、この先何すれば良いか分からないんだが?

 早く家に帰って寝たいんだが?


 それと地味に引っかかたんだけど、突発的な現象を表すなら特殊イベントじゃなくて突発イベントの方が適切では無かろうか?


[……特殊イベントに関しては、世界の法則が通用しないことも多く、解析は困難です。]


 無視か。まあ、別にそこは反応しなくても良かったし、構わないけどっ……おいおい、ってことは最悪帰れないってことか? げ、マジか。


[警告。この歪みの中では自身に対する干渉を除く能力の発動ができません。]


 叡智さん?

 今サラッととんでもないこと言われなかったか?


 なにそれ。ほぼ詰みじゃん。無理ゲーだよ。俺の聞き間違えかな?


 そう思って軽く火の魔法を使おうとしたが、使えなかった。

 ……聞き間違えじゃないじゃん。終わった。


[当然、火属性魔法も体外で発動はできません。ですから先程自身への干渉以外に能力は使えないと警告しました。]


 うっざ。マジでそういう報告不要だから。

 一応試しただけじゃんか。

 ホントそういうのいらないから。


 でも自分への干渉はできるんだよな?

 なら流石に回復魔法は使えるよな……やっぱり使えるみたいだ。


[それに関しても……]


 叡智、もう喋るな。


 ――今のところは敵対的な存在は感じられないが、今までの感じだと……メタ的に居るよな、敵。

 ……取り敢えず最大限に警戒しながら周りを調べるか。


 ……予想はしていたけど、どの家にも入れないと。

 当然か。窓が空いてる家は一つもなかった。

 外を地道に探すしかないか。


 そうして、外の探索を進めたが、驚くほど何も無い。

 完全にただの街だ。

 そういえば驚くほど静かだな。

 そういえば……さっき口に出して愚痴ってたときの声が小さかった気がする。


「あー」


 試しに声を出してみたが、やっぱり小さい。

 何か体から直接響く音しか聞こえてないみたいな、そんな感じだ。

 確か、イベントの名前って『時死ときしにの市街』だったはず。

 名前から判断すると……あれもしかして俺以外の、周囲の時間止まってる?


 ……いや、それはおかしい。

 だとしたら空気も止まって動けないはずだし。


 それなら俺を起点に時間が動く範囲が決まってるとか?

 例えばほんの少しだけでも俺の周囲の空間の時間が動いていたとしたら……それなら今動けていることにも納得がいく。


 ということは、時間的な歪みってやつ?

 でもほかの疑問もある――それだと周りの景色が見える理由が説明できない。

 光だけ時間が止まってないってこと?


 そんな事ある? ……事実目の前で起こってる可能性があるから否定はできないな。

 俺を起点に時間が動いているのと同じ原理と思えば、まあ納得できない訳ではないが、それならなぜ俺と光だけなのか? 

 どんどん謎が深まっていく。

 でもイベント名的に時間停止関連なのはまあ予想がつく。


[禁忌スキル『時間歪曲』を獲得しました。]


 うざいし。禁忌って何。物騒だからやめてくれ。

 ただでさえこの状況で精一杯なのにこれ以上厄介そうなものを押し付けないでくれ。

 まあ通知はただの通知だし、何を言っても無駄なのは既にわかってますけどね? それでも頼むよ、お願いだから。

 これ以上不憫な目にはあいたくないんだよ……

 現在進行系で不憫な目に合ってるけどな。はぁ。


[歪みが生じているエリアを解析した結果、その歪みの中心を起点とした一定範囲の空間で時間の進行が停止状態になっていることが判明しました。]


 ……それはもう大体分かってるし。

 どうせならもう少し有用な情報が欲しかったんだけど。

 あ、だったら抜け出せばいいだけじゃないか?

 結構簡単な話だったか。


[……歪みの境界から脱出した場合、無事に脱出できる可能性は十分に存在します。しかしその際には、僅かな時空の歪みがその境界地点に一瞬発生するため、少なくとも一割の確率で脱出した際、マスターの時間が停止、または逆行する危険性があります。また、時空の狭間に飛ばされる危険性もあります。よって境界外への脱出行動は推奨されません。]


 ……一割か。

 これを低いと見るか、大きいと見るか。

 今までのパターンだと、悪い方向に物事が進むんだよな。

 でもそれ以外どうしろって言うんだよ。

 周りとの連絡手段もないから、他所から頼れる人も呼べない。

 賭けに出るか?


 ヤバい。俺の危険察知がものすごく反応してる。 

 行ったら死ぬってうるさいほど警告してきている。

 レベルで言ったら、通知に初めて苛まれた日のあのうるささだ。

 もう慣れたからこの程度は然程問題はなくなったが、いやそんなこと無いかも。

 まだそれなりにキツイ……いや結構キツイ。


 分かったって。行かないから。


 さっきまでうるさい程行くなコールを出していた危険察知がピタリと止んだ。

 今行こうとしたらまたうるさくなりそうだし、取り敢えず境界から脱出するのはやめておくか。

 もううるさいのは勘弁だ。


 そうでなくとも、ほぼ起こらないレベルの災難に見舞われる俺だしな。一割でも十分に引っかかりうる。


 まあ、別に他の方法が無いって決まった訳ではないし、そこまで急いで賭けに出る必要はないだろう。

 先ずは一旦他に出来る事……まあ、手掛かりとか探してからにしよっと。



――――――――


 作者です。


 本日は、受験勉強の息抜きという形で執筆させていただきました。予定に無い投稿だったので、混乱した方には申し訳ない限りです。

 ですので、連載再開時期は予定通り3月末、もしくは4月の初め頃で変わりません。

 

 今後とも応援していただければ幸いです。

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何かする度にスキルを獲得したとか聞こえるけど、多分幻聴だよな。 電源コード @leyn

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