解答編

 奥野おくのは、しばらく考え込んでから答えた。

正悟しょうごさんは青酸せいさんカリを、結婚披露宴会場けっこんひろうえんかいじょうに持ち込んでいない……。でも萌美もえみさんは、青酸カリが原因げんいんくなった。とすると、まさか?!」


 すると藤巻ふじまき刑事は、続きをうながした。

「まさか、何でしょうか?」


 奥野は、意気込いきごんで答えた。

「まさか正悟さんは青酸カリを持ちんだんじゃなくて、持ちった?!」


 藤巻刑事は、微笑ほほえみながら聞いた。

「つまり、どういうことでしょうか?」


 奥野は、答えた。つまり青酸カリを持ち込んだなのは、正悟さんではなく、萌美さんだったんじゃないですか? 萌美さんは結婚披露宴が始まる時に、身体検査しんたいけんさをされていないはずです。萌美さんは自分の飲み物に青酸カリを入れた後、正悟さんに渡したんじゃないですか?!


 すると藤巻刑事は、説明した。はい、その通りです。正悟さんのアパートから見つかった青酸カリが入っていた小瓶こびんには、二つの指紋しもんがあったといいましたよね。一つは正悟さんのもので、もう一つは、萌美さんのものでしたから。


 そして藤巻刑事は、聞いた。

「ではどうやって萌美さんが正悟さんに、青酸カリが入った小瓶を渡したのか、分かりますか?」

「はい。萌美さんが正悟さんに渡したという、ますくらいの大きさの小箱こびんに入れて渡したと思います。それには指輪とネックレスが入っていたそうですが、青酸カリが入っていた小瓶も入れられると思うので!」


 すると藤巻刑事は、うなづいた。

「はい。そうすると萌美さんが正悟さんに告げた、『あなたからもらったモノを、すべてお返しします』という言葉も納得できます。おそらく正悟さんは結婚披露宴の前日に、萌美さんに青酸カリが入っていた小瓶を渡したのでしょう。そして結婚披露宴の当日、萌美さんは自分の飲み物に青酸カリを入れて、正悟さんにかえしたのでしょう」


 だが奥野は、聞いた。

「でもどうして、そんなことをしたんでしょう?」


 そういう奥野に、藤巻刑事は聞いてみた。

「まずは自分で、考えてみてください」


 腕組うでぐみをして考え込んだ後、奥野はげた。

「えーと、分かりません……」


 すると藤巻刑事は、微笑ほほえんで答えた。

「まあ、この事件のなぞをほとんど推理すいりできたので、良しとしましょう。おそらく萌美さんは無理むりやり結婚させられることになった、隆道たかみち氏に復讐ふくしゅうしようと考えたのでしょう。はじをかかせることで」


「恥をかかせる? えーと、あ! 身体検査しんたいけんさだ! 萌美さんが亡くなって、警察がきた。調べてみると死因しいんは、青酸カリによるものだった。でも萌美さんは、持っていなかった。すると次にうたがわれるのは、隆道氏や結婚披露宴に参加していた人たちだ! 大勢おおぜいの前で疑われて身体検査をされることは隆道氏にとって、恥だったという訳ですね!」

「はい。それがこの事件の、全ての真相しんそうだと思います。でも……」


 奥野は、聞いてみた。

「でも、何ですか?」


 藤巻刑事は、真剣しんけんな表情で告げた。

「でも自殺なんてことをしなくても、よかったんじゃないかと思うんですよ。そんなに無理やりな結婚がいやだったら、二人で逃げれば良かったんです。日本にいて白鳥しらとりグループから逃げられる自信がなかったら、海外に逃げるという方法もあったと思うんです」


「なるほど、そうですねえ……。結局は萌美さんと正悟さんは、青酸カリで自殺ですからねえ。何だか、やりきれない事件ですねえ……」


 そして藤巻刑事は、奥野に告げた。

「そうですね。とにかく捜査そうさする事件が無い時は、過去の事件を調べてみてください。それも良い刑事になるために、必要なことだと思います」


 奥野は、まった表情で答えた。

「はい! 分かりました!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今日も藤巻刑事は新人を育てる その五 久坂裕介 @cbrate

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ