エロ書いて人間関係で苦労して学んだんですよ

朱緑樹

エロ書いて人間関係で苦労して学んだんですよ

 小説を書いていると言うと、必ずこの質問を返される。


「エロ小説書いてるの?」


 その人の思考回路では、小説イコールエロと変換されるのだろうか。そういう人ばかりではないと思いたいが、いちいち確認したことはない。


 ここで扱う「エロ」を私なりに定義する。一般的な定義ではなく、私個人が定義したものであることをお断りしておく。私が考える「エロ小説」とは、「性行為そのもの、または性行為に至るまでの過程、もしくは性行為を伴う異性または同性同士の恋愛を描写した小説」である。


 そこで振り返る。私はエロ小説を書いてきたのかと。


 答えはイエスだ。


 goo辞書から引用すると、黒歴史とは「俗に、人には言えない過去の恥ずかしい言動や前歴。」である。


 エロ小説を書いてきたと公衆の面前で臆面もなく告白している現在の私の行為こそリアルタイム黒歴史ではないか。


 学生時代、当時人気で流行していた少年漫画の二次創作で、同人誌としては発表しなかったものの、登場人物同士の恋愛小説を小さなノートにせっせと書いていた。むろん、性行為を書いている。黒歴史の始まりである。


 当時の私には恋愛経験すらなかったのになぜ性行為の描写がある小説を書けたのかというと、豊富にあった二次創作の漫画や小説を読みふけっていたおかげで、脳内で擬似体験が済んでいたからだ。


 熱中していた少年漫画の連載が終了したあと私がはまったのが、テレビアニメ化された歴史漫画である。私の同人誌デビューはまさにその歴史漫画の二次創作の小説であった。初めて販売したのは薄いコピー誌。作成を手伝ってくれたのは、今は亡き実母であった。


 そこから私は本領を発揮した。私の書く小説はすべて性行為ないし男性同士の恋愛要素が入った内容となった。現実の恋愛経験は乏しいままだったけれど、そのぶん書籍から得た恋愛経験及び性体験を脳内に蓄積することにいそしんだ。


 なぜ私はそこまでして性行為や恋愛を書こうとしていたのだろうか。


 書くなら現実に体験すればよかったではないかという話になろう。しかし私には、身近に恋愛感情を起こさせるような人がいなかった。私が好きになるのは皆、漫画の登場人物だった。


 現実の人間関係に当時の私は傷つくことが多かった。しかも相談できる人がいない。私を傷つけないのは、漫画で描かれた人間関係だけだった。特に互いに相手を思いやる様子は温かく、読んでいて心地よく感じる描写が多かった。


 私は自分が望む人間関係、つまり濃密かつ熱い交流を自分でも体験したくてそれを文章で表現していたのだと思う。それが「エロ小説」であったということだろう。


 二次創作の交流はほとんどが紙媒体を介して行われた。インターネットは普及したばかり、まだソーシャルネットワーキングサービスも誕生していなかった。個人情報保護の観点は当時なかったので、奥付に記載された住所と名前を封筒に書いて文通していた。しかし、その頃知り合った人たちとは現在残念ながら交流はない。


 実はこれも私の黒歴史になるが、私は創作を介した人づきあいがうまくなかった。


 今、反省する。自分の主張ばかりしないで、もっと相手の立場を思いやっていればよかった。相手に配慮した言動をすればよかった。そうすればその人たちとも今なお交流が続いていたかもしれない。


 そうした黒歴史に学んだ今、創作を介した人づきあいにも気をつけるようになった。


 エロ小説を書いてきたと公衆の面前で臆面もなく告白していること、そして創作を介した人づきあいが下手なこと、二つの黒歴史を披露した。


 黒歴史から学べば、私の歴史も「黒」ではなくなる気がする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エロ書いて人間関係で苦労して学んだんですよ 朱緑樹 @zhulushu0318

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画