【KAC20247】そして色が消えた

涼月

 今日も上司に怒鳴られた。

 作成した資料の数字が間違っていて恥をかいたと。

 お前からはやる気が感じられない。

 そう言って人格を否定された。


 違う。やる気はある。

 でも、連日の残業のせいで頭が朦朧としていたんだ。


 俺のミスは許せないくせに、待ち受けの飼い猫には滅法甘いらしい。


 俺も飼い猫になりてぇ。

 飯の心配も宿の心配もしないで寝るのが仕事なんて、最高だよな。


 その夜、俺は夢を見た。

 猫になって誰かの膝の上にいた。

 背中を撫でる手がとても温かかった。


 次の朝目覚めると、妙に青みがかった視界だった。

 何が起こっているんだ?

 卓上の電気ポットを見て気づく。

 赤が見えないんだ!


 会社に電話してすぐさま眼科へ。

 特に異常は無し。ストレスを溜めないように言われた。


 赤信号が見えない。

 赤字表記がわからない。

 つまり、注意事項への反応が遅れる。


 みんなが気づくことを自分だけ気付けない。

 それだけで、妙に不安になる。

 赤が見えないだけで疲労は倍増した。

 

 逃げ出したいと思いながら飯を食べる。

 蝿に狙われているのだが、案外すばしっこくて退治できない。

 ああ、俺もコイツのように自由に空を飛べたらいいのに。


 夜、夢を見た。

 蝿になって宙を彷徨う。

 自由だけど目標も無く闇雲に飛んでいるだけだった。


 翌朝目覚めたら、紫と黒の世界になっていた。

 前後左右のモザイク映像が脳内を駆け巡るも輪郭はぼやけている。

 ああ、これが複眼ってやつか。

 これじゃ会社に行けねぇよ。


 上司に説明したけれど、一刀両断された。

 お前の妄想には付き合いきれない。

 さっさと辞表を書いて病院へ行けと。


 誰にも分かってもらえないことが辛い。

 強烈な疎外感。気が狂いそうだ!


 動けずにじっとしていたら、いつの間にか水の中にいた。

 ああ、俺はまた夢を見ているんだな。

 流線型の姿に鮫だと気づく。

 食物連鎖の頂点なら、少しは生きやすくなるだろうか?


 そこは白と黒の世界。

 揺らぐ波と光だけ。


 とても静かだ。


 そして俺の世界から色が消えた。



          完


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【KAC20247】そして色が消えた 涼月 @piyotama

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