サイコロ色の人生

瘴気領域@漫画化してます

三色

 ――アイツは叔父貴の愛人イロなんだよ。色目を使ったてめえが悪い。石ぃ抱かされて沈められなかったのがありがてえくらいだ。叔父貴にはよーく礼を言っておきな。ああ、詫び料は俺が立て替えておいてやった。返済はゆっくり・・・・でいいからよ。利息だけきっちりしてくれりゃいいからさ。


 ぼこぼこに殴られて顔を腫らしているおいらに、兄貴は半笑いで言った。弟分が美人局つつもたせにやられたってのに。つーか、てめえもグルかよ。まるでモテねえおいらが、キャバ嬢なんかに言い寄られるからおかしいとは思ってたんだよ。クソが。


 兄貴だの叔父貴だの、ヤクザの世界はやたらアットホームな職場をアピールしたがるが、当たりめえだが実際はまるで違う。金、暴力、そしてそれが生み出す権力。その入れ子構造がヤクザ社会だ。下のもんを痛めつけて、ひたすら吸い上げる。おいららみてえな下っ端は、泥水啜って必死に小金を稼ぐ。上に貢ぐ金を稼ぐために。


 高校で退学を食らって、バイクとサイコロを転がすぐらいしか能がなかったおいらにはそのへんがよくわかってなかった。漫画やアニメに出てくるカッコいいヤクザってのが存在するんじゃねえかって、ぼんやり憧れちまってたんだ。


 現実にあったのは、無理やり借金背負しょわされて、毎日アゴで使われて、やる仕事といえば風俗嬢デリの手配や借金の取り立てキリトリ。借金持ちが借金持ちから金を絞ってるんだから始末に負えねえ。まったく馬鹿げた世界に入っちまったもんだ。


 おいらの世界はの二色だけで説明できる。サイコロと一緒だ。ああしろ・・こうしろ・・、ガキの頃は親に言われ、ヤクザになったら兄貴に言われる。毎日毎日、苦労・・ばかりで旨味がねえ。


 おいらは成り上がりたくてこの稼業に入ったんだ。スーツに金バッジつけて、盛り場を肩で風切って歩いてよ。そのへんのチンピラどもが目も合わせられねえような。「わっ、なんとか会のなんとかさんじゃないですか!」なんて慕うやつもいてよ。キャバにでも行きゃ姉ちゃんたちが入れ食いよ。


 それがどうだ? 現実は半グレのガキ共にもナメられて、キャバは兄貴の奢りで太鼓持ち。女ってなぁ群れのボスがわかるんだってな。下っ端のおいらなんか、ろくすっぽ相手にされやしねえよ。クソが。


 あんなクソどもは全員いっぺん刺してやりてえ。腹をナイフでえぐって、内臓モツを引きずり出してやって、そいつの眼の前で踏みつけてやるんだ。焼き肉にして自分に食わせてやるんだ。気がつけゃあそんなことばっかり考えてる。


 おいらみてえなクズを見ると、もっと色々・・な選択肢があったはずだとか、あーだこーだとぐちゃぐちゃぬかすやからがいる。酒浸りのクソ親父と、性病で脳みそがぐずぐずになったお袋に育てられたおいらによ。酒浸りじゃねえパパと、性病なんて無縁のママに育てられたやつが、偉そうに、な。


 そう、いまおいらの話を読んでるてめえがそれだよ。ぬくぬくあったけえところで育ってよう。おいらみてえなのはテレビの向こうにしかいねえ珍獣ぐれえに思ってんだろ!? ああン!? もごもご言ってねえではっきり言えよ! おいらはゴミカス以下のゲロ野郎だって言いてえんだろ! このクソ野郎が!




【ずぶり、と音がする】

【荒い息遣いが聞こえる】

読者あなたは腹に熱い感覚を覚える】

読者あなたは腹を手で押さえる】

【どろりと、熱い】

読者あなたは手のひらを見る】

【赤い】

【赤い】

【赤い】

【赤い】

【赤い】

【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】【赤い】




【赤い】




 ああ、そういやサイコロは三色だったか。

 訂正しとくよ。おいらの世界は白と黒、それから赤で三色だ。


(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サイコロ色の人生 瘴気領域@漫画化してます @wantan_tabetai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ