第3話 市街地に行ったら言葉が通じそうな人がいた!
俺は線路に沿って自転車で市街地に向かった。市街地は東京ほどではないが他の地方都市顔負けの綺麗な街並みであり、街並み自体は俺も気に入っていた。那覇郵便局はアールデコ調の綺麗な建物で思わず写真を撮りたくなるほどだった。
「ふぁ~那覇の中心部に来たって言うけどなんか国際通りじゃないみたいだな」
確かにここは那覇の中心部みたいだけど、国際通りにしては道幅が狭いし、なんと言うかやっぱり殆どの人が裸足で不潔ぽい格好をしていた。なんだよ、ここは日本じゃないのか?
さっきの手に痣があるおばさんのように頭に荷物を担いだ人や笠を被った人もみんなボロボロの着物(芭蕉布)を着ていた。
それにみんな俺の事をジロジロ見ていた。
「なんだよ。なんで俺の事ジロジロ見るんだよ」
俺は捨て台詞を吐くと、ジロジロ見ていた人達は俺の元から去って行った。
(みんな不潔じゃないか…)
俺はアイツらが言葉の通じるような人間じゃないので、とりあえず和服やスーツを着ている人を探そうと思った。
とそこに人力車から降りたばかりの帽子に眼鏡をかけた50代ぐらいのおっさんがいた。俺はその人なら言葉が通じるだろうと思って声を掛けた。
「あのすいません。ここはどこですか?」
俺はおっさんに声を掛けてた。本当に那覇かどこかわからなかったから、ここはどこか聞いた。すると、おっさんは親切に答えてくれた。
「何を言っているんだね?君は?ここは那覇だよ」
やっぱりここは「那覇」か。にしては随分、竹富島みたないだな。なぜだろう。とりあえず念のため、年号を聞いてみるか。
「じゃあ何年の何月ですか?」
「大正5年5月6日だ」
え?大正5年?冗談じゃない。俺は平成28年の那覇新都心にいたはずだ。
「大正5年……って事は大正時代の沖縄に来たって事か…」
俺はどうやら沖縄戦から30年近く前の沖縄にタイムスリップして来たらしい。
俺が内心、驚きながら下を向いていると、おっさんが不思議そうに俺の方を見た。
「君、変な事聞いて名前はなんと言うのかね?」
「香坂亮太です。ここに来たばかりでなかなか土地勘が無くて」
流石に俺が100年後の未来から来たと言うと信じてくれないので、そこは敢えて嘘をついた。
「私は
おっさんはどうやら女学校の校長先生をしているらしい。それにしても沖縄県立高等女学校と沖縄県女子師範学校ってどっかで聞いた事がある名称だな・・・小学校か中学校の平和学習でそんな感じの名前の学校が出なかったけ?
「そうなんですね!お仲間がいて嬉しいです!ついでにお茶でもしませんか?」
俺はやっと言葉が通じる人に出会えたので、思わず、蟹江さんの手を握った。
「あっあ…そばのお店があるが、そこに行くかい?」
蟹江さんがどこかの通りに指を指すと、俺は「はい!もちろんです!」とお辞儀をした。
「きっ、君、そこまでお辞儀をしなくてもいいんだよ。早く一緒にいこう」
「はい」
俺は蟹江さんと一緒にそばやへ行くことになった。
郵便局や市役所から少し抜けると、そこは赤瓦の屋根に町屋風の建物が多く並んでいた。
「蟹江さん、趣があっていいですねぇ」
俺は町屋風の建物を見ながら歩いていると、「森そば」と書かれた看板があった。
「ここが『森そば』という支那そばの店だ」
「支那そば?中国のそばって事はラーメンみたいなもんですか?」
沖縄と言えば「沖縄そば」が有名だけど、「支那そば」って聞いた事が無いな・・ラーメンみたいなもんか・・・・
「まぁ『そば』って言うけど、そば粉は使わないし、ラーメンみたいなもんかな?」
蟹江さんがそう呟くと、俺は「森そば」という店の中に入っていた。
店内は沖縄の食堂というよりはどっちかと言うと、時代劇にも出てくるような木造の建物であり、カウンター席とそうじゃない席があった。
「いらっしゃい!お客さん、食べたいそばはあるかい?」
店主も俺と同じように日本語を話してきた。もしかして森そばの店主は「森さん」という人なのだろうか?
「支那そば醤油味1つ、ついでに連れにも支那そば醤油味1つ」
「はいよ」
蟹江さんがそばを2つ注文すると、俺はお金があるのかな?と思い、思わずリュックから財布を取り出した。財布の中身は案の定、少しの小銭と現金、キャッシュカード、SuicaやOKICAと言ったICカードしか入っていなかった。くそっこれっぽっちかと思ったが、この時代だと殆どが使えないものばかりだ。
「蟹江さんいや、蟹江先生、代金の方はありますか?」
「大丈夫、今日は私の奢りだ」
蟹江さんは俺の背中を叩いてくれた。
「奢りですか…偉いですね…うちの常連にはツケ払いする客がいましてね…その人がとても厄介なんですよ」
店主がそばを作りながら、厄介な客について話した。
「ほーその厄介な客とは?一体どなたで?」
蟹江さんが店主に尋ねた。
「ほら、図書館で館長をしている伊波文学士ですよ」
店主が困った顔で話すと、蟹江さんが「あー」と納得した顔になった。伊波文学士って沖縄の人ぽいけど、蟹江さんその人の事を知っているんだろうか?
「伊波文学士と言ったら、最近、組合教会という男も女も集まる変なものを作った人だろう?ほら、私は女学校で校長を務めているからうちの生徒達にもそこに入らぬよう注意をしている」
「お客さん、女学校の校長かぃ?流石だねぇ私も子供達にあんな人間にならないように注意してますよ」
どうやら蟹江さんと店主によると、伊波文学士は評判が悪いらしい。
しばらくして店主が「はいお待ち!」と2人分のそばを配ると、そこにはそばにネギ、お肉が入ったそばだけど、今と違って醤油味だった。
「汁が濃いですね…」
俺は濃い汁を見ながらそばを食べた。
「そうか?関東育ちの私はちょうどいい味だと思うが」
蟹江さんは醤油味のそばを美味しそうに食べた。俺はこの時代のそばを食べた感想としては今の沖縄そばの方が美味しい感じがした。
そばを食べ終えると、蟹江さんは代金を払って俺と一緒に森そばの店から出た。
「次は郵便局で郵便物を出すから、その後に師範学校の宿舎に行くとするか」
蟹江さんは俺と共に森そばから郵便局へ向かった。
公僕の俺が「大正時代の沖縄」にタイムスリップした件 浮島龍美 @okinawa1916
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