透明な君に憧れる【KAC20247】

銀鏡 怜尚

透明な君に憧れる

裕基ゆうきくんは青緑だね」


 私は幼少の時から、文字や形を見ると色を感じた。例えば、黒で書かれた『8』という数字を見ると、黒い文字の縁にうっすらとの緑のもやがかかって見える。


 これが『共感覚』という一部の人に先天的に備わった能力だと気付いたのは、大人になってからだ。


 特に、人の顔立ちに本来ないはずの色彩を強く感じた。

 パーソナルカラーとは違う。その人が元来保有する色で、マイナンバーのようにそれは変わらない。また、各々おのおの微妙に色が異なって見えた。私はそれを『私色インディビジュアル・カラー』と呼んだ。


 この能力を活かして、試しに『私色』が黄色の女性に紫の男性を紹介したところ、相性抜群で結婚を果たした。

 黄色と紫は補色の関係だ。互いの色を引き立て合う相乗効果『補色調和』が、人間でも当てはまることを発見した。私はこれを占いに応用すると、たちまち全国からカップルや片想い中の若者らが訪れるようになった。


 私はニーズに応えようとして、この共感覚を研ぎ澄ませる薬を見出みいだして、服用したりした。

 しかし、共感覚を鍛えすぎた結果、私の視界には色彩情報が溢れていた。汚れたパレットのように複雑な色で脳を支配し、困憊こんぱいさせた。


 そんな苦悩とは裏腹に、続々と占いを求めて人はやって来る。

 限界に達していた。


 ある日、疲れ果ててフラフラしながら帰宅しているとき、ある男からまばゆい光が放たれていた。


 何て美しい人なんだろう。その男の『私色』は無色透明だったのだ。色に塗れていないのがかえって神々しい。

「私と付き合ってください」

 初対面なのに、気付くとすがるように懇願していた。せずにいられなかった。


 しかし、なぜ無色透明なんだろう。理由は彼から語られた。

 

貴女あなたのことは知っていましたし気になってました。最近色が見えすぎてつらいようですね。実は僕は色盲です。色のない世界は不便ですが、これはこれで新たに見える世界がある。なまじ色が見えすぎるから僕に魅力を感じたのでしょう。まず、薬をめてはどうですか?」

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