【KAC20247】人魚の涙の色

蒼河颯人

人魚の涙の色

 あの、金色と鮮血の色が引き裂かれたような空

 その色は、

 唯一無二の伴侶を失い、嘆き悲しんだ人魚の涙色


 寄り添うように打ち寄せてくる波

 波しぶきが飛び跳ねてきては、顔を濡らしてくる

 血に染まった頬を、ゆっくりと洗い流していくかにように……

 

 寄せては返し、返しては寄せる波の音

 それは、身体中に響き渡っている

 まるで、激しく鼓動する心臓のようだ


 今日の波は、荒れている

 満ちひきを繰り返しては、しぶきをあげている

 渚でたった一人取り残された人魚は、一体何を思うのか……


 

「必ずまた戻って来る」と言った、あなたの言葉を信じて

 わたしはひとり

 ずっと待ち続けている

 あなたを一度失い、奇跡的に再び出会えて

 今度こそずっと一緒にいたいと、わたしは強く願った

 だけど、運命のいたずらか、あなたを再び失ってしまった

 わたしを守るために、あなたがその身を犠牲にしてしまう形で……

 

 海の深い蒼と空の透き通るような水色がとけあった

 美しく輝くこの世界

 その中で零れ落ちた一粒の水滴

 それは、わたしの涙

 あなたを想って流したそのしずくは、

 鮮やかな緋色


 身体中をめぐりにめぐったその後で、

 心臓に戻らずそのまま目からこぼれ落ちてきたような、

 血のような涙の色

 熱く、燃えるような焔のように、赤々としている

 それは、まるで枯れることを知らない、生命の泉


 あなたはわたしの元へ、再び戻ってきてくれるのか

 わたしはまた一人きりで、生きてゆかねばならないのか

 あなたは嘘をつくような人ではない

 約束を必ず守ってくれる人


 だから……わたしはここで静かに待っていよう

 この寄せては返し、返しては寄せる波の音を聴きながら

 いつになるか、分からない

 何百年、何千年、何万年、何億年……

 想像さえできない


 それでも、永劫にさえ思える時の中で待っていよう

 あなたが戻ってくるのを

 だってあなたは、寂しがり屋だから

 ひとりでは生きていけないから

 再び巡り会えたら、再び奇跡が起きたら

 今度こそ、わたしはあなたを絶対に離さない

 ずっと、あなたのそばにいる


 あなたを愛している

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