虹色髪のお嬢様とメイド長 〜にじそらスピンオフ〜

矢口愛留

「お嬢様、またやりましたね?」

 お久しぶりのにじそらスピンオフです!

 後日譚・聖王都での新生活の続きとなっておりますが、未読でもお読みいただけるようになっております。

 メイド長エレナ視点です。


*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~


 あたしは、エレナ。

 ここエーデルシュタイン聖王国の出身なのだけれど、訳あって国境を越え、それからずっとファブロ王国にあるロイド子爵家にお仕えしてきた。

 なのにどうして聖王国に戻ってきたかというと、ロイド子爵家のお嬢様、パステル様がこの国の王子、セオドア殿下と婚約したためである。


 そんな訳で、あたしは、聖王都にあるパステルお嬢様の屋敷で、メイド兼侍女として働いている。

 ちなみに、手乗りサイズの小さな兵隊の妖精さんたちが護衛についてくれているので、セキュリティの方も万全だ。

 結婚式を挙げるまでは、パステルお嬢様は城には住まないと決めているようである。


「パステルお嬢様、明日のご公務にはどちらのドレスを着て行かれますか?」


 あたしは、柔らかなシフォンのスカイブルーのドレスと、少し紫がかったゼニスブルーのドレスをお嬢様の前で広げた。

 お嬢様は、眉を下げて、目を泳がせ始める。


「あ、えっと……ブルーのドレスがいいかな」


「……どちらもブルーですが」


「えっ」


 驚いて目を見開くお嬢様に、あたしは盛大にため息をついた。

 大方、セオドア殿下の髪色に近いブルー系か、瞳の色に近いイエロー系のどちらかで迷っていると思ったのだろう。


「……お嬢様。さては、またやりましたね?」


「……ごめんなさい」


 お嬢様は、灰色の瞳を伏せ、しゅんと項垂れる。

 結っていない美しい虹色の髪が、さらりと肩からこぼれた。


「だって、あの子、迷子になって困っていたんだもの。怪我もしていたし」


「……つまり、水の精霊様の力で傷口を洗い流してもらったと」


「ええ。その後は傷にハンカチを巻いて、光の精霊様におうちまで道標をつけてもらったの」


「精霊様のお力をそんなホイホイと使うものではありませんよ」


「わかってる、わかってるけど……、つい、ね」


 お嬢様はお人好しすぎて、街で困っている人を見かけるとついつい助けてしまう癖がある。

 そして精霊様のお力を借りると、その代償として、しばらくの間、お嬢様は対応する『色』が判別できなくなってしまうのだ。


「心配しなくても、小さな力しか借りていないから、明日の公務までにはこの眼も回復するわ」


「……お嬢様のお人柄はご立派ですが、あまりやり過ぎると、下手したてに見られますよ。お嬢様も、セオドア殿下も」


「セオも……、そうよね。もう少し気をつけないと、セオにも迷惑がかかっちゃうよね」


 そのお人好しのおかげで、パステルお嬢様とセオドア殿下の市井での評価は上がりつつあるらしいというのは黙っておく。

 善意でやっているのはわかるが、お嬢様はこれから王族になるのだ。

 もう少し自重してもらわないと、ただの便利屋に成り果ててしまうのではないだろうか。


「さて、でしたらドレスは明日決めましょうか。先日いただいた『世界樹まんじゅう』がまだ残っていますから、お茶にしましょう」


「ええ、そうね。ありがとう、エレナ」


「どういたしまして」


「あのね、いつも、私のためを思ってはっきり言ってくれるエレナ、大好きよ」


「まあ! もったいないお言葉です。おだてたって何も出ませんよ」


「ふふ。本心だよ」


「……今日は特別です。『地の精霊レアーのチーズケーキ』を夕食のデザートに付けてあげちゃいましょう!」


「わあ、やったぁ! ありがとう、エレナ!」


 お嬢様はたくさん大変なことを乗り越えてかなり成長したけれど、こうやって甘いものひとつで顔を綻ばせるところなんて、やっぱりまだまだ子供なのだ。

 立派に巣立つその日まで、そばで支えてあげよう――あたしは決意を新たにした。

 そして、ぽわぽわと花のように笑うお嬢様を見て、この笑顔を取り戻してくれたセオドア殿下に、改めて感謝したのだった。


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 お読みくださり、ありがとうございました!

 KAC期間が終わったら、この作品はにじそら本編に合流させたいと思います。

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虹色髪のお嬢様とメイド長 〜にじそらスピンオフ〜 矢口愛留 @ido_yaguchi

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