どの色おもい ~桃木アカネの憂鬱~ 

隠井 迅

イメージカラー、それが案外大事

 これが最後の挑戦のつもりで、とあるオーディションに臨んだ桃木アカネは、念願かなって、最終審査を突破し、夢の一歩を踏み出す事になった。


 この日は、これから共に夢を追ってゆく仲間達との初顔合わせの日で、今後グループで活動してゆく上での、各自の呼び名や前口上、イメージカラーを決める事になっている。


 グループで活動する場合、それが、戦隊ヒーローであれ、魔法少女であれ、あるいは、アイドルであれ、メンバーごとに色が割り振られるようになっていて、例えばそれは、「アカ~」や「~ブルー」というアレや、火属性は赤、水属性は青というコレである。

 ライヴ・アイドルの現場などにおいては、そこで知り合ったばかりのヲタクに、自分の〈推し〉が誰であるかを伝える場合にも、名前ではなく、イメージカラーを言うシーンが多々ある。


 色分けされた数多のアイドルグループや戦隊の存在ゆえに、色には既に固有のイメージが付着していて、赤は熱血なリーダー、青はクールなナンバー・ツーで、多くの場合、赤と反発し合っている。黄色の体格は大柄で、大食いのカレー好き、ピンクは紅一点の女性メンバー、そして、植物系の緑は不遇キャラといった具合である。


 つまり、グループ活動において、自分の担当色が何になるかは、極めて重要な問題なのだ。

 たしかに、ラスト・チャンスと考えていた選考会で、夢にまで見たメンバー入りができて、それだけでも満足すべきなのに、アカネは、ここまできたら、不人気色の緑にだけはなりたくない、と思ってしまっていた。


 自分の名前は〈桃木アカネ〉だから、ピンク、もしかしたらワンチャン、リーダーカラーである赤色に指名される可能性もある。


 やがて—―

 最初の仕事の日になり、自己紹介の前口上を披露する最初の機会が訪れた。

 ここまで来たら、もはや照れている場合ではない。

 意を決し、アカネは声を発した。


「正義の樹木ミドネイチャー、悪人ども、自然の怒りを嚙み締めな!」


 


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