とりあえず転生します

結 励琉

トリあえず異世界行っとく?

「私は転生を司る女神です。じゃあ、トリあえず異世界行っとく?」

 

目の前の女神様がそう言った。

 何そのとりあえずビールみたいなノリは。

 私はまだお酒が飲める年齢ではないけれど。

 普通は異世界転生というと、もっといろいろ説明があるのではないか。


「あの、女神様、とりあえずのトリがカタカナになっていたのはなぜですか?」


「大人の事情よ。ひらがなで言ってよいかわからなかったからね。それよりあなた、何で私のしゃべった言葉が、ひらがなかカタカナかわかるのよ?」


「私には人が……あなたの場合は神様だけど……しゃべった言葉を文字として認識できる能力があるんです」


 それは本当だ。

 私たちの「敵」は必ずしも人間にわかる言葉を話すとは限らないから、こうした「意思認識能力」は必要なのだ。

 

 もっともこの神様は日本語をしゃべっているのでその能力を使う必要はなかったが、神様にも私たちの能力が通じるか試してみただけだ。

 いや、問題はそこじゃない。


「いやあの、女神様、何でいきなり異世界なんですか。私は死んだのですか?」


「まあそうなんだけど、私も忙しいのよ。今日もあと20人異世界転生させるのがノルマなので、いちいち説明している暇はないのよ」


 人に転生を説明するのを「暇」って。


「それであなた、異世界行くの? 行かないの?」


 死んじゃったのなら仕方ない。

 というか、この仕事をしてたら、いつかは命を落すのは覚悟していた。

 とはいえ、この年で人生を終らせるのは悲しい

 たとえそこが異世界でも、命を永らえることができれば行ってみたい。


「わかりました。行きます」


 私は即答した。


「話が早くて助かるわ。じゃあ、あなたはどんな世界へ行きたい? どんなスキルが欲しい? さあ、さあ」


 そんなにせかさなくてもとも思うが、これも私は即答できる。


「魔法のない世界で。そしてスキルはいりません。今のままでいいです」


「珍しいわね。みんな魔法のある世界で、最強の魔法スキルで無双したいって言うのに」


「そんなのいいですから、早く転生させてください」

「まあ、スキルはいらないって言うなら、それならこっちも手間がかからなくていいわ。今のままでいいのね」


 よし、うまくひっかかってくれた。

 女神様、チョロいな。


「はい、今のままでかまいません」


「それでは、あなたを異世界へ転生させます。さあ、旅立ちなさい!」


 女神様はそう言って、私に金色に輝く光線を浴びせた。

 私は光に包まれて、どこかにふわっと飛ばされた感じがした。


 目を開けたら、目の前に街が見えた。

 異世界というからどんなところかと思ったら、今までいた街と変わらない。

 これならなじみやすくて好都合だ。


 さて、何をしようか。

 とりあえず、この街、いや、この国の権力者を倒して好き勝手にやらしてもらおう。


 そう、私は魔法少女。

 生前、というか、前の世界では、何やらわけのわからないマスコットにだまされて魔法少女になり、悪の組織と戦ってきた。

 いや、戦わされてきた。

 それはもうたくさんだ。


 前の世界では人のために戦ってきたのだから、今度はこの魔法スキルを自分のために使わせてもらう。

 女神様も「今のままで」としてくれたのだから。

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