実行編

「はい皆様、窓の外に御注目ください」

 言い出しっぺとして、新人がガイドをするよう強いられているのだが、ここはとある異世界。ファンタジー世界群とは違い魔法などは存在しない世界だが、窓の外は一面の大沼沢地。水鳥があちこちを飛び交っているものの、旅行者以外の『ヒト』の気配は無い。

「こちら、基軸世界より……鳥類の進化が爆発的に進行した、言うなれば『鳥の世界』です」

 時折、眼鏡の中のアンチョコに眼を落としながら、説明する。

「未だせい……生物層評価の済んでいない世界のため、今回は残念ながら皆様の御脚で地面を踏んでいただくことは出来ませんが、代わりに珍しい鳥の姿を窓からじっくり御覧いただきます……きました! 『比翼鳥』の群れです!」

 それは二羽の水鳥が腰のところで繋ぎ合わさったような姿をした、奇妙な鳥であった。

「ええと……私達の基軸世界にチョウチンアンコウという生き物がいまして、これは一度オスとメスが出会うとメスがオスを吸……メスとオスが二度と離れなくなる魚なのですが。そんな感じで、一度出会ったら離れなくなるよう肉体的に融合する鳥なんですね。で、この世界を報告した探検家が、東洋の伝説上の鳥になぞらえて『比翼鳥』って報告したんです」

「『願わくば天にありては比翼の鳥、地にありては連理の枝たらん』。『長恨歌』か」

 老齢の紳士が言った。

「……そうそれです! この鳥のように、皆様がたが末永く一緒にいられるよう、どうかじっくり御覧ください」

 慌て気味に新人は応えた。

 二体分の肉体が重たいのか、比翼鳥の若鳥は水辺で何度もひっくり返っている。一方、歳のいった様子の比翼鳥は、軽々と着水し、餌を啄んでいる。

 その様子を、航界機の中からカップルたちは見て、ああだこうだと語り合うのだった。


 ※ ※ ※


「取り敢えずうまく行ったんじゃないか? トリだけに」

『トリだけにじゃなくてですね』

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離れない世界 歩弥丸 @hmmr03

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