第8話

──無月むつきがボスエリアに到着する1時間ほどさかのぼる。


ゴブリンダンジョンに到着してそうそうに、クリシ・フロラシオン・ヴィーテ・バハムートを召喚した無月は、


「さーて。前回の初ダンジョンは色々と不完全燃焼で終わった感じだし、やっとダンジョン攻略が始められるな……とりあえず当面の目標は、土日は休みにして、平日は毎日入ダンする。できるだけ早くBレベルまで上げたいなって考えてるけど、どうかな?」


「それで良いと思うよ? 最低でもBレベルはないと私は楽しくないし、特にフレイアシエたちが早く暴れたいっていつもうるさいもん!」


「最初はなるべく目立たずにやっていこうと思ってたのに、ダンジョンネストのせいで派手に注目を集めてしまったからな。ここはもう開き直ってドンドン進んでいこう!」


無月はHMDS《ヒムダス》を起動して、ダンジョンマップアプリを操作する。


このアプリには、これまで発見された情報などがマップ形式で表示されており、その中にはどの位置にボスフィールドがあるのかも記載されている。


しかしこのダンジョンマップアプリも制約があり、自分のハンターレベルと同レベルダンジョンまでしか閲覧することができない。


そうして無月はマップを確認しながら最短ルートを選びつつ、クリシを先頭に移動を始めた。


初入ダンから300体狩ったゴブリンを筆頭に、ゴブリンウォーリアー、ゴブリンアーチャー、ゴブリンプリースト、ゴブリンウィザードなどのゴブリンシリーズを、襲ってくるものは容赦なくクリシが返り討ちにしていき、遠くで恐慌状態に陥っている、はたまた逃げ出したゴブリンたちを無視してひたすら徒歩で歩き続ける。


その際に魔石モンスターコアを回収するのも忘れない。


彼らにとっても貴重な収入なのだ。


それから暫くすると、大きな門が視界に入ってきた。


「ここがボスエリアか」


「歩くだけで1時間もかかったね?」


「ダンジョン自体が普通に広いし、こんなもんなんじゃないか?」


「ここのボスを倒すとハンターレベルが上がるの?」


「そういえば。クリシにはランクアップクエストについて詳しく話してなかったかな? このことは他の使い魔にも共有してくれると助かる」


「ニシシ、おっけ~!」


現在ボスエリアの扉は開かれており、ボス攻略をしているハンターはいなし、周りにも特にこれから挑戦しようとしているハンターも見当たらない。


そうしてボスエリアの目と鼻の先で、無月はクリシに説明をする。


改めて『ランクアップクエスト』とは、初心者ハンターの基本書にも記載されているとおり、ハンターレベルを上げるためには、通常クエストを一定回数達成して、ギルド協会が実績やそのハンターたちの能力をかんがみて、ギルド長とギルド副長の許可が下りれば、レベルアップクエストの受注可能になる。


そのレベルアップクエストとは、つまるところダンジョンボス討伐のことである。


例としてIレベルからHレベルに上げる場合には、全てのIレベルダンジョンのボスを討伐する必要がある。


そして残りのダンジョンボスを討伐したければ、それぞれのダンジョンでまた一定数のクエストを成功させなければならない。


無月は既に『ゴブリンダンジョンのボス、ゴブリンキング討伐:報酬金額100.000円』を受注可能となっていたため、今回はそれを受けることにした。


ダンジョン攻略したという定義は、ダンジョンボス討伐が達成したかどうかが判断基準になる。


早くレベルを上げたい無月にとっては渡りに船だった。


一度に受注できるクエストは1つまでというルールがあることから、今回の目的であるダンジョン攻略を果たすためにボスクエストを選んだ。


「まぁ今回はゴブリンダンジョンのボス討伐ランクアップクエストを受注できたけど、あんまり焦っても仕方ないし、俺らのペースで実績を積んでいこうな」


「私たちなら楽勝だよ!」


説明が一段落付き、2人は開かれた大きな門を通った。


少し進むと、バタンッ! と、扉が閉じる。


「グギャギャギャ! グギャー!!」


10メートル先に現れたボスモンスター、ゴブリンキングが無月とクリシを威嚇するように叫ぶ。


外見は身長約3メートルほどであり、筋肉質でがっしりとした体だった。


肌の色は濃い青緑色で、野蛮な表情からは鋭い牙が口から覗いていた。


赤く輝く目は2人を睨み付け、髪は長く乱れた黒髪が肩まで垂れている。


頭には鉄製の錆びた王冠、体に装備しているのは堅固な鎧で、右手には巨大な鉄製の斧を持っている。


そんな初心者ハンターにとって最初の大きな壁は、体格に似合わない速度で接近してくる。


──しかし、


「『シュペルノヴァ』」


クリシの小さな右のてのひらから、無属性の魔力が圧縮されて、ゴブリンキングにとって理不尽と言ってもいいレベルで、絶大な魔力弾を複数解き放たれた。


一撃だった。


シュペルノヴァは、ゴブリンキングを跡形もなく一瞬で消滅させた。


「……うん、知ってた」


予想通り過ぎる展開に、何の感情もなくポツリ呟いた無月は、ゴブリンキングが落とした魔石を拾い、


「ほめてほめて~!」


と、頭を差し出してくるクリシによしよししながら、無月夜空にとって初めてのダンジョン攻略が終わった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る