【KAC20246】鳥、遭えず

武江成緒

鳥、遭えず




 ここはでっかいでっかい樹。

 てっぺんの枝のさらにてっぺん。


 おいらの巣のあるこの場所には、いろんなやつが飛んでくる。






 本来なら、こんなとこまでくるやつなんて、そうそういないはずなんだが。

 いまこの樹、これまで滅多に見たことないほどぐにゃぐにゃしてて。

 葉っぱどもも、玉虫色、いやゲーミング色に点滅してて。

 なにかの門だか鍵だかになって爆発開花しそうな有り様だったんだが。


 このまえ枝の裂け目から大量に咲きだしてきたレッサーパンダが『世界の崩壊』だとかさえずってるのを聞いて、やっと少し納得できた。


 そりゃあこの樹、世界樹、って呼ばれてる樹も、こんなカオスになるわけだ。




 ここまで飛んでくるやつらも、飛ばされてくるだけの理由、飛んでこなけりゃならない理由がいろいろあるんだろ。



 まあ、とりあえず。

 ついさっき、どこかから、おいらの鼻の先にまで風で飛ばされてきたこいつ。

 こいつの話をもっかい聞きなおしてみるか。






「トリに会いたい、ねぇ。

 そのトリってのは、おいらに会うんじゃ駄目なのかい」




「わかったわかった。お前もどうせ紅焔鷲ポイニクスに会いたいとかいうんだろ?

 永遠に生きたいとか、なにか再生したいモンがあるとか」


「もうちっと前だったかね。そういうヤツらがいたんだよ。

 小せえ女と、ながい剣もった……男だったか、女だったかな?

 まあいいや、その二人づれ、あんまり必死そうだったんで、ついつい道を教えてやった。

 運がむちゃくちゃ良かったら、紅焔鷲ポイニクスの巣にくらいは辿たどりつけてるんじゃないかね」




「それとも目当ては龍喰鷲ガルダかね。

 まあわかるよ。まったく龍だの蛇だのってやつぁ、ぬめぬめぐにゃぐにゃしてて陰険で、ものの言い方までねじ曲がって……って、んなこたぁ聞いてない?」


「龍だの蛇に、喰い殺されてほしい奴でもいるかと思ったが、それも見当違いってかい」




「わかったわかった。

 お前が会いたいのは孵陽鷺ベヌウ、こいつで間違いないだろう。

 あたらしく太陽をまた孵させて、壊れちまった世界を再生したいとか、ムダにでっかい夢をこじらせてると見た」


「はぁ?

 そんな意味ない話はしてないって」






「……なるほどねぇ。

 お前が会いたかったのは、紅焔鷲ポイニクスでも龍喰鷲ガルダでも、孵陽鷺ベヌウでもなかったと」


「あのふたつ頭の欲深鳥、金銭王マンモンに会いたかったのかい」


「この世界が崩壊するその狭間。

 うまくやれば、世界の富のそのすべてを、黄金を、手前のその手にまるごと握れる。

 そういう思惑だったのかい」


「残念ながら、あんまり面白い魂胆とは思えないね。

 それにその願い、叶うだろうとも思えんね」


あいつマンモンは、自分てめぇにすがる奴を助けない。

 頭の中身がとっくの昔にきんきらきんで、両方の目もきんきらきんの、そんな奴だけ助けるのさ」


「ナニもかもを犠牲にして、こんなてっぺんへ飛んできた。

 なのに願いはそもそも叶わんものだった。

 そんなオマエは、遠慮会釈なく喰らわせてもらうとしようか」





 そう宣告をし終えると。

 世界ユグドラシルのそのはてに座すもの喰屍巨鷲フレースヴェルグはその大口をかっと開いて。


 屍と断じた獲物を喰らい尽くした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC20246】鳥、遭えず 武江成緒 @kamorun2018

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ