テトリスのL字ブロックで殴りたい
菊池ノボル
本編
みんなもテトリスのL字ブロックで殴りたいよな。
Lの長い部分を持って応援団の旗みたいに掲げてさ、どっかの誰かに向かって思い切り振り回すんだよ。さぞかし気持ち良いだろうなぁ。目の前の奴がL字ブロックに当たってさ、どんどんぶっ飛んで、周りの物も壊れて、そんな光景を見せられると、これだからテトリスは辞められないって気分になっちゃうよな。運よく攻撃に気付いても長いL字ブロックだから回避しづらいし、先端が折れ曲がって下を向いてるから、しゃがんだ奴まで漏れなく殴れる。無敵だね。まるで気分は歌舞伎町の伝説の極道だよ。
そう言う経緯で俺はL字ブロックを持って郊外のクラブへとやってきた。ここは不良や半グレのたまり場として、地域では有名だった。つまりは殺しても良い人間ばかりなので、L字ブロックを振るうにはうってつけの場所だった。
「こんばんは~」
「あん?」
俺のあいさつに反応した門番をまずは殴りつけると、ドアごと壊れて飛んで行った。開ける手間を省けたのでそのまま足を踏み入れると、今度は呆気にとられた顔の受付の男と常連っぽいギャルが居たので、ブロックを振るって受付ごと床に潰した。
受付横のドアを開けると、そこはホールだった。目の眩むような光線と大音量の音楽が溢れる中、人々が体を揺らしていた。どうやら入り口で何があったのかはまだ誰も分かっていないらしい。
ふーん、こんな世界もあるんだな。テトリスばかり遊んでたから、全く知らなかったよ。俺はL字ブロックを振るい始めると、やがてあちこちから怒号や悲鳴が上がっていった。
流石に不良や半グレの集まる場所ともあって、ホールに居た人間を半分ほど倒したところで、屈強そうな男が武器を持って現れた。ナイフ、鉄パイプ、スタンガンに、おいおい拳銃まであるのかよ。本物か? 最近の半グレも昔のヤクザと変わらなくなっているって話は本当だったんだな。
俺はそいつらを全員なぎ倒していった。何故ならこちらが持っているのはL字ブロックだからだ。自分の事を守ってくれるはずの男たちが次々とやられていった事でパニックに陥った女たちも同じようになぎ倒していった。
およそ、20分。クラブの中に居た人間は全て倒せたようだった。予想通り、テトリスのブロックで人を殴るのは実に心地よく、これからも続けていきたいと思える素晴らしい行為だった。
だけど、一つだけ誤算があった。俺はクラブの床を見て大きくため息をつく。
多くの死体がクラブの床一面に広がっている。その光景に俺は耐えられなかった。
その理由は明白だ。俺はテトリスプレイヤー。ブロックを綺麗に積み上げ、綺麗に消すことを生業とする生き物だ。だからこそ、こんな無秩序に死体が散乱した状態は俺の目指す理想とまさに真逆のものだった。
今すぐこの場を綺麗にしなければ。だが、どうやって?
俺は口に手を当て思案する。クラブごと燃やしても死体は残るし、一人ずつ原型が無くなるまで潰すのは面倒、周りに腹ペコの猛獣の群れでも居れば食べてくれるかもしれないけど、あいにくここはサバンナではない。
いくつもの考えが浮かんでは消え、やがて俺は一つの可能性に行き着いた。確証は無いがやってみるしかない。
俺は死体を仰向けにし、まるで身体測定の時のようにピンと伸ばした姿勢にしていった。それらをホールの端から端までズラリと並べていく。俺の考えが正しければ、これでうまくいくはずだ。
最後の一人をちょうどホールの端に置き終える。すると、死体は点滅し、大きな音を立てた。
ピキャピキャ!! ポェール!!
聞きなれた音とともに死体は全てその場から消え去った。
「どうやら間違いないようだな……」
俺は実験の成功につい顔をほころばせてしまう。
「人間は横一列に並べると
俺がその事実をSNSに投稿すると、それを見た世界中のテトリスプレイヤーがこぞって人間を襲っていった。そして幅のある場所に横一列に並べては楽しそうにそれらを消していった。別に人を殺してみたかったとか、恨みがあったわけじゃない。ただ、そこに綺麗に消すことの出来る物があるのなら消したくなる。テトリスプレイヤーには当たり前の本能。それだけの話だ。
俺がSNSに投稿したその日以来、テトリスプレイヤーに取って人間は同じ姿かたちをした隣人ではなく、己の本能に基づいて消すべき存在へと変化したのだった。
そうしてテトリスプレイヤーと人類は戦争状態に陥った。だが、何かを消すことについて、テトリスプレイヤーの右に出る生き物はこの世に存在しない。わずか一年もたたずに人類は滅亡し、世界は生き残ったテトリスプレイヤーだけとなった。
消すべき存在を全て消したらどうなるか。当然テトリスプレイヤーも一列に並べると消えるのだから、次は仲間同士での消し合いだ。
生き残ったテトリスプレイヤーおよそ100万人。これらが最後の一人になるまで消し続ける。
テトリス1000000。
闘いが今ここに始まろうとしていた。
テトリスのL字ブロックで殴りたい 菊池ノボル @Q9C_UPR
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます