希死念慮に襲われて何度も自殺を繰り返すも、そのたびに蘇ってしまうメアリーの奇妙な日常を描いた本作品。
生と死、そして復活というドラマチックな題材を扱っているにも関わらず、その筆致は淡々としており、どこかユーモラス。彼女の身の回りの人物もいい味を出しており、医師のクラークは自殺をして病院に運ばれては蘇るメアリーを笑顔で迎え入れ、大家のマクレーン夫人は死ねないメアリーに対して、死ぬのはかまわないが部屋を汚さない方法でやってくれと言い放つ。別に彼らが人でなしというわけではない。それぐらいメアリーの死と復活が日常となっているのだ。
序盤のあの手この手で死のうとするメアリーの様子も面白いのだが、中盤で彼女の体質(?)が世間に知れ渡ると、途端に彼女の存在は注目を集めることになり、気軽に死ねなくなってしまう。
自分の死が特別視されることにうんざりして「私が死ぬことに、勝手な意味を付けないで! ひとりで死なせて! あなたたちのことなんて知らない!」と叫ぶ彼女の姿は実に切実だ。
そんなメアリーが最終的に下した決断と、それに対する世間の人々の反応は味わい深い余韻を残す。〝不死者〟と〝自殺〟という相反するテーマを結び付けて、独自のエッセンスを加えた奇妙な味の短編だ。
(「不死身な人々」4選/文=柿崎憲)