解答編

 奥野おくのは『取りあえず』、トイレに入ろうとしていた杏梨あんりを止めた。手にはシンクを洗う時に使っていた、洗剤せんざいを持っていた。奥野は、困惑こんわくした表情で聞いた。

「『取りあえず』めましたけど一体、どういうことですか、自殺なんて?!」


 すると藤巻ふじまき刑事は、説明した。杏梨さんがシンクを洗う時に使っていた洗剤はおそらく、塩素系えんそけいタイプでしょう。独特どくとくの、『ツン』としたにおいがしましたから。そしてトイレを洗う洗剤は、酸性さんせいタイプが一般的です。ところで塩素系タイプの洗剤と酸性タイプの洗剤は、絶対に混ぜてはいけません。塩素ガスが発生するからです。


 塩素ガスを吸うと、体に必要な酸素が十分に供給されなくなり呼吸不全こきゅうふぜんを起こす肺気腫はいきしゅになってしまいます。濃度のうどが高い塩素ガスを吸ってしまうと、呼吸困難こきゅうこんなんになり意識不明いしきふめいになる場合もあります。だから塩素系タイプの洗剤と酸性タイプの洗剤のボトルにはそれぞれ、『まぜるな危険きけん』と表示されています。


 それを聞いた奥野は、聞いてみた。

「なるほど。でも、どうして杏梨さんが自殺をはかろうとしたと、考えたんですか?」


 藤巻刑事は表情をくもらせて、答えた。

「杏梨さんは、さっき言いました。夫の克己かつみさんが結婚すると人が変わったため、絶望した。自殺しようと考えたが、『まず』克己さんを殺すことにした。ですから克己さんを殺した今、今度は自殺しようとしたんじゃないかと考えたんですよ」


 奥野は、納得なっとくしたようだ。

「な、なるほど……」


 そして藤巻刑事は、続けた。

「いいですか。刑事は犯人を、絶対に自殺させてはいけません。司法しほうばつを、くだすまでは。そして出来れば司法がくだした罰を、犯人がつぐなうまでは。これは、大事なことです。きもめいじておいてください」


 奥野は、真剣しんけんな表情になった。

「はい! 分かりました!」


 すると藤巻刑事は、優しい表情で杏梨に告げた。

「今すぐに署で、くわしお話を聞かせていただきます。もちろん、あなたが変な気を起こさないように、厳重げんじゅう警備けいびをして。よろしいですね?」


 杏梨は、力なくうなづいた。

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今日も藤巻刑事は新人を育てる その四 久坂裕介 @cbrate

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