第119話 ひとまずまとめようか

「アルフィス様! この度は大変申し訳ありませんでしたッ!」

「本当にごめんなさい……」


 リリーシャとレティシアの二人が丁寧に頭を下げた。

 謝って済む問題じゃないんだが、いつまでもこいつらを責めても仕方ない。

 もっとも一番キレてる奴がオレの隣にいるが。


「お前達、アルフィス様を本物だと見抜けなかった分際で今更謝っても遅いんだよ」

「ルーシェルさん、仰る通りです。今の私にアルフィス様の近くにいる資格はありません……」

「そうだね。本来ならこのボクが直接殺してやるところだよ」


 ルーシェルが弓矢をゼロ距離で構えてリリーシャ達を捉えている。

 この距離ならマジで逃げようがないな。

 いくらレティシアの堅牢な防御も構えがあってのものだ。


 あのスケルトン野郎がザコすぎて話にならなかったが、今のルーシェルはこいつら二人より頭一つ抜けて強い。

 それを理解しているのか、リリーシャとレティシアは大人しく目を伏せていた。


「……ま、アルフィス様が許すっていうならそれもボクの意思だ。だけど二度目はないよ」

「ありがとうございます……」

「肝に銘じるわ」


 リリーシャにとっては屈辱だろう。

 マジでオレが偽物だと思い込んだ上に戦ってみれば歯が立たず、ルーシェルまで強くなってるんだからな。

 その証拠にリリーシャが歯軋りをして拳を握っている。


 普段のバカっぷりのせいで想像できないがルーシェルは裏ボスだ。

 そのポテンシャルを少しずつ発揮しているから、本来なら二人がかりでも手に余る。

 その片鱗を感じ取ったリリーシャとレティシアはすっかり萎縮しているな。


「それで次はお前達だよ」


 ルーシェルが今度は戦争屋ブラザーズに矢を向けた。


「俺達は降参する。逃げも隠れもしない」

「じゃあ、殺していいってことだね」


 オレがルーシェルを片手で遮った。

 今のこいつなら殺しかねないな。ただでさえアホ二人のせいでイラついているからな。


「待て、ルーシェル。そいつらはただの雇われだ。殺したところで何の意味もない」

「でもこいつらが背中から襲ってこないとも限らないんじゃ……」

「この前の山賊と違ってこいつらはクズじゃない。プライドを持って仕事をしているタイプだ」

「そうなんですかぁ? 見るからに三下っぽいですけどぉ」


 ゲームでもこいつらは負けた際には大人しくなって潔かった。

 そこで主人公のレティシアはこう選択したはずだ。


「戦争屋ブラザーズ、オレに雇われないか?」

「なんだと……?」

「少なくともゼルカールのハゲよりも報酬を出すぞ。オレはバルフォント家のアルフィスだ、額面は保証する」

「バルフォント家だと?」


 ここでオレがバルフォント家だと素直に認めるほどお人好しじゃないよな。

 別にこいつらが断るならそれも良し。

 レティシアと違ってオレには主人公が持つカリスマ性なんてないからな。


 オレとしては今のこいつらと戦ったところで何の得にもならない。

 強いといってもしょせんは中ボス程度だし、今のオレなら素手の状態でも余裕を持って勝てる。

 それにおそらくこいつらなんか比較にならないほどのボスが待ち構えているはずなんだ。

 そいつの名前は――


「そこにいる賊ども! この砦はインバーナム軍によって包囲されている!」


 砦の外から男の声が響いた。

 距離はだいぶ近いな。なるほど、影武者と傭兵は最初から使い捨てだったわけか。

 ゼルカール、思ったより用心深いし頭が回るな。少し舐めすぎたか?


「おとなしく投降するのであれば手荒な真似はしないと約束しよう! インバーナム軍の誇りにかけてゼルカール様にも取り計らっていただけるよう進言する!」


 下らん戯言はスルーしてオレは魔力感知を行った。

 具体的な数はわからないがそこそこの数だな。

 いくら辺境の田舎貴族の軍とはいえ、大軍をかいくぐるのは簡単じゃない。


 シェムナとレークスの存在なんて何のアドバンテージにもならないのは明白だ。

 ひとまずここは一つずつ解決していくしかない。 


「……ということだが戦争屋ブラザーズ、どうする?」

「やれやれ、とうとうこんな日がきたか。いくら腕を磨いたところでしょせんは傭兵なんざ雇い主に恵まれなければこの様よ」


 長男のアビシーが後頭部をポリポリとかく。


「選択肢などないだろう。ディエフ、ギヒ。オレ達の雇い主は今からこのアルフィスだ」

「はぁ、なんでこうなっちまうのかねぇ。オレぁ悲しいぜぇ」

「んー、でもアルフィスが本当にバルフォント家の人間で尚且つ報酬をきっちり払うという根拠でもあるんすかね?」

「責任は長男の俺が取る」


 次男と三男が頷いた。長男の決断が早くて助かる。

 戦力は少しでも多いほうがいい。

 というわけでもう一つの問題も解決しておこう。


「レークス、ヘソを曲げてないでお前も戦え」

「フン、貴様の指図は受けん。愛しの妹なら話は別だがな」

「じゃあシェムナ、死ぬほど不本意だろうが頼む」


 シェムナに振ると嫌悪感丸出しの表情をしている。

 ここでグダグダ抜かすなら兄妹のどっちも置いていくつもりだ。


「バカクソ兄貴、話があるなら後で死ぬほどぶん殴ってやるから協力しな」

「ぶ、ぶん殴るだと? い、いい、いいだろう。ふふっ」


 なんかレークスの顔が恍惚としてないか?

 ただでさえ変態なのにそっちに目覚めたら手に負えなくなるぞ。

 シェムナが今にも殺しそうな殺気を放っているが、もう少しだけ我慢してくれ。


「よぉーし! じゃあボクが軽く蹴散らしますね!」

「あまり甘くみるなよ。数の暴力ってのは思ったより厄介なもんだ。しかも今のオレには魔剣がないんだからな」


 当たり前だけど体力や魔力には限りがある。

 まずオレ達は何をすべきか。インバーナム軍を全滅させるのは現実的じゃない。

 ゲーム的に考えれば勝利条件はインバーナム軍を振り切る。

 こっちの戦力はオレとルーシェル、リリーシャ、レティシア、エスティ、シェムナ、レークス。そして戦争屋ブラザーズ。


 敗北条件は一人でも死ねばゲームオーバーだ。

 いや、戦争屋ブラザーズはたぶん死んでも問題はないか。

 それでも控えめにいって難易度が高いな。


「仕方ない。ここはこいつの手も借りよう。ミュウ」

「うみゅーーー!」


 カバンを開けるとミュウがぬるっと出てきた。

 うねうねと動いて力こぶまで作ってかなりやる気だ。


「アルフィス様ぁ、そいつ使えるんですかぁ?」

「こいつは学園が襲撃された際にグリムリッターの小隊を一匹で壊滅させている。というかお前もこいつの実力は知ってるだろう」

「おい、お前。アルフィス様とボクの言うことをしっかり聞くんだぞ」

「うみゅう~~~……」


 ミュウがぷくっと頬を膨らませている。

 ルーシェルに命令されてご機嫌斜めだな。

 さて、勝利条件に向けて戦いに挑むか。


「出てこないのであれば制圧させてもらう! 全軍ッ! 突撃ッ!」


 隊長らしき男の声と共に大勢の鎧が一斉に動く音が聞こえた。

 これだけの数を集めたとなれば町の警備も手薄になっていそうだな。

 そう、オレ達の勝利条件はクリーゼルの町に入ることだ。

 町の中に潜伏してしまえばこっちのものよ。


――――――――――――――――――――――――――――――――

久しぶりのうみゅう。


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【書籍化】王国を裏から支配する悪役貴族の末っ子に転生しました~「あいつは兄弟の中で最弱」の中ボスだけどゲーム知識で闇魔法を極めて最強を目指す。ところで姫、お前は主人公のはずだがなぜこっちを見る?~ ラチム @ratiumu

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