第118話 ボケ続けるのも大概にしろ
「行くわよ! レティシア! 合わせなさい!」
「あなたこそ前に出過ぎてはいけませんよ!」
いきなり息が合ってなさそうなんだが大丈夫か?
なんてオレの心配をよそにリリーシャが炎の魔力をまとう。
迸る炎の揺らめきや火の粉が炎球となってあいつの周囲を漂っていた。
おいおい、なかなか成長しているじゃないか。
魔力の練度といい、学園で魔術真解(笑)を披露した時とは比べ物にならない。
リリーシャに近づけば熱を全身に浴びて絶命しかねないほどだ。
「はぁぁぁぁっ!」
レティシアが剣を構えてリリーシャの前に立つ。
その佇まいはあいつに樹齢数千年はあろう巨木が重なって見えるほどだ。
素手のオレが渾身の一撃を入れてもビクともしないだろう。
「この白盾のレティシアの堅牢の構えを崩せると思わないほうがいいですよ!」
「ていうかお前、盾とか持ってないじゃん」
ゲームでは盾を持たせる選択肢もあるけどな。
ただ素早さと火力が落ちるから時と場合によって選ばなきゃいけない。
さて、オレが思った以上に成長してやがるな。
「プロミネンスランスッ!」
槍と化したマグマが放たれた。
かすらなくても熱風だけでそこそこのダメージにもなるな。
「ブラックホール」
「……ッ! それってアルフィスの!?」
「だから本人だって言ってんだろ」
プロミネンスランスがブラックホールに吸い込まれていく。
ところがプロミネンスランスが枝分かれして更に攻撃範囲を広げた。
加速的に伸びるマグマの枝のすべてにブラックホールを対応させていたら切りがない。
「隙ありッ!」
「ちっ!」
そうこうしているうちにレティシア突進してきた。
凄まじい重圧の突進で、かすっただけでも軽く吹っ飛ばされてしまう。
「カカカカッ! そこダぁ!」
「アンデッド野郎ッ!」
しびれを切らしたスケルトン野郎が斬りかかってきた。
ていうか当然のようにアンデッドと共闘してんじゃねえよ。
お前ら全員頭おかしいんじゃないのか。
「アルス様!」
「ルーシェル、シェムナ、レークス。お前ら暇だろ? あそこのスケルトン野郎と三バカの相手でもしておけ。それとアルス呼びはもうやめていい」
ルーシェルとシェムナが待ってましたと言わんばかりに躍り出た。
だけどレークスだけは気が進まないみたいだ。
まぁ従う道理はないから好きにしたらいい。
「おい、クソザコ骸骨。ボクが相手をしてやるよ」
「ンンーーンンン! クソガキが舐めたクチを聞くナ! 今やオレは無敵の剣帝なるゾ!」
「無敵? 剣帝? どこが?」
「見ロ! 剣が六本もアル! 一本よりも六本のほうが強イに決まっテル!」
さすがのルーシェルもこれにはきょとんとしている。
頭まで腐ったらお終いだろ。
「……お前、見た目だけじゃなくて中身もスッカスカだね」
「殺スッ!」
スケルトン野郎がルーシェルに襲いかかった。
この沸点の低さよ。そりゃバカに利用されるわな。
で、問題はあっちの戦争屋ブラザーズだ。
あいつらは終盤に出てくる人間ボスだけあってなかなか強い。
恒例の舐めてかかって挑んだら全滅したボスシリーズの一つだ。
今まで空気を読んで黙っていたけど、さすがにこれ以上は待ってくれないみたいだ。
「お前ら、あのガキどもかなりやるみたいだぞ」
「アニキがそう言うんならそうなんだろうなぁ。オレぁホントに嬉しいぜぇ」
「んー、でも俺達に勝てる根拠でもあるんすかね?」
戦争屋ブラザーズがずらりと並んでそれぞれポーズを取っている。
まさかこれを見られる日が来るとはな。
「長男のアビシー」
「次男ディエフ」
「三男ギヒ」
大、中、小と縦に並ぶ。
まるでE〇ILEのぐるぐるでもやりそうな勢いだ。
「人呼んで戦争屋ブラザーズ、火種がありゃ駆け付ける。そこに銭ありゃ拾う。ただし拾う命はねぇ」
「それでも命惜しくなけりゃ……」
「んー、命が惜しかったらこの場にいないっすよね?」
三男のギヒが見事にテンポを崩す。
そう、こいつのせいでまったく締まらないんだよ。
そこはかかってくるんすね、だろうが。
「よそ見をしている暇はあるの!」
リリーシャがフェニックスのごとく炎の翼を生やしている。
こりゃさすがに遊んでいられないな。
それにこのアホ二人には少しお灸をすえる必要がある。
「……お前ら、意地でもオレがアルフィスだって認めないつもりか?」
「あなたがアルフィスなら剣はどうしたの! いつも大切そうに持っている魔剣までは真似できなかったからそうなっているんでしょ!」
「まぁ口で説明するよりこっちのほうが手っ取り早いか」
オレは魔力とは別のものを放出した。
漆黒の闇の魔力に交じる一筋の紫電のような力がバチリと大きく音を立てる。
「な、そ、それって……」
「リリーシャさん! あれってまさか!」
オレは足回りを魔力で超強化して瞬発した。
拳にまとわせたそれは破壊の波動だ。
拳をリリーシャめがけて振りかぶると風圧だけで炎の翼が散っていく。
「ま、ま、待って! それって破壊の……」
「ボケるにしてもなげぇんだよ! すぐ切り替えろやッ!」
オレの拳がリリーシャ目がけて放たれた。
突風のような風圧でリリーシャとレティシアがまとっていた魔力が一瞬で剥がれ飛ばされる。
脆かった砦内の瓦礫が完全に砂となってどこかへかき消えた。
「何がっ!」
「起こった!」
「うぁあぁーー!」
あまりの威力に戦争屋ブラザーズがバラバラになってしまった。
せっかくの戦いを邪魔してすまないな。
一方で魔力強化すら消されたリリーシャとレティシアの二人は完全に生身となっていた。
オレの破壊はあらゆるものを破壊する。
最近だとこのくらいまでならあまり負担なく行使できるようになった。
とは言ってもあまり連発はしたくないけどな。
「ひっ……」
もちろん拳はリリーシャの鼻先で止めておいた。
尻餅をついたリリーシャと構えを崩さないレティシア。
レティシアはさすがだな。まさに国を守る王女の風格だ。
「あ、あっ……」
だけどそこまでだ。
剣を握る手が緩んで落としてしまったみたいだ。
これでようやく冷静に話ができるな。
「……これで理解したか?」
「ご、ごめんなさい。だってまさかアルフィスがこんなところにいるなんて思わなくて……」
「それはこっちのセリフだ」
リリーシャが涙目で震えている。
強がってはいるけど心のほうはまだまだか。
つい最近になってようやく苦手な暗闇に慣れたばかりだもんな。
これで誤解が解けて一件落着、ではないよな。
戦争屋ブラザーズが完全に動きを止めてこっちを見ていた。
「オレ達のことは気にせず続けろ」
「……割に合わん」
長男のアビシーが武器を落として両手を上げた。
続けて次男と三男も同じく武器を手放す。
さすが戦いに身を置いているだけあって潔いな。
本当に肝が据わってる奴らは死ぬ覚悟だって出来ている。
信念がない奴ほどアンデッドになってみたりして身を滅ぼす。
ん? そういえばあいつの姿が見えないな?
「おい、あのスケルトン野郎はどこいった? 逃げたか?」
「アルフィス様の破壊の波動で消し飛びましたよ」
「いくらなんでもザコすぎるだろ」
ルーシェルが暇そうに片足を軸にして回転している。
うん、なんか申し訳ないな。
オレはあんなザコの相手をルーシェル達にさせようとしていたのか。
戦争屋ブラザーズでさえ無事なのになんであいつだけ消し飛んでるんだよ。
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