第117話 これクソ展開じゃね?

「来たか」


 深夜、砦跡地にやってきた一つの影を確認した。

 オレ達は偵察に出ていたルーシェルからの情報を逐一受け取っている。

 情報によるとハゲ、じゃなかくてゼルカールは本当に一人で来たみたいだ。


「アルス様、どうします?」

「少し様子を見よう」


 オレ達は散って物陰に隠れて様子をうかがった。

 フードを被って周囲を見渡しているあいつがゼルカールか?

 数分ほど待ってみたが、あいつはここから動こうとしない。


 オレは闇魔法の恩恵で、この暗闇でも目が見える。

 ゼルカールの顔の特徴は兄のレークスから聞いている通りだ。

 後退しつつある前髪と老け顔、何よりあの悪人面は一度見たら忘れない。

 とてもシェムナやレークスと同じ血が通っているとは思えない風貌だ。

 その悪人面がその場から動かず、微動だにしない。


(なんだ? いくらなんでも落ち着きすぎだろ)


 普通、到着して誰もいないとわかると確認の声を出すはずだ。

 だけどあいつはずっとその場で立っている。

 魔力感知をした限りでは周囲に護衛の影もない。


 仕方ないからオレが一人で出てみよう。

 他の連中には合図するまで待機してもらっている。


「ゼルカールか?」

「うおっ!」


 オレが暗闇から姿を現すとゼルカールはあからさまに驚いた。

 その顔とは裏腹にやけにビクビクしている。

 聞いていた通りの小物みたいだな。


「一人で来たことは褒めてやる。お前には聞きたいことが」

「い、言われた通りだな……」

「あ?」

「賊ってのはお前だろ。いい機会だ、授かったこの力を……見せてやる。グゲゲ……」


 ゼルカールが突然苦しみ出した。

 目玉が膨張して皮膚が煮えたように膨れて剥がれ落ちる。

 ボトボトと肉片を落とした後、骸骨が剥き出しになった。


「ぐぎぎぎ……ぎぎぎ……」

「チッ、こいつ影武者かよ。オレとしたことが気づかなかったな」

「ゲゲッ! ゲゲゲェ!」


 全身の肉が削ぎ堕ちた後、新たにそこにいるのはスケルトンだ。

 腕が四本も生えてそれぞれの手に剣を持ち、さながらスケルトンキングってところか。

 こいつはたぶんあいつによって送り込まれたな。

 オレが個人的に戦いたがってる奴なんだが、どうやらちゃんといてくれたか。


「お前ら、出てきていいぞ。たぶん人質作戦は失敗だ」

「アルス様、そのアンデッドはボクが仕留めますよ!」

「アンデッドか。まぁ正確には元人間だけどな」

「え?」

「ゼルカールそっくりに整形した後、魔力まで拝借して込めたんだろう。こうすることで魔力感知すらも潜り抜けられる。確か影武者を作る常套手段だったはずだ」


 並みの影武者ならオレも見抜けないことはないが、何せこれを施した奴はかなりの手練れだ。

 おそらく適当な奴を口車に乗せてやる気にさせたんだろう。

 金か何かをちらつかせてな。


「ンンンン! この力はスゴイ! 今までとは比べものにナラナイ!」

「で、お前はアホの口車に乗せられたってわけだ」

「違ウ! これは進化ダ! これで病気にもナラナイ! 疲れナイ! 永遠に生きらレル!」

「くっだらねぇ。信念がない奴ってすぐそういうのに流されるよな」


 要するにこいつは利用されたとも知らずに、強くなれるとかなんとか囁かれたんだ。

 それがアンデッドへと変貌する呪いとも知らずにな。


 そう、このアンデッド化は呪いだ。

 大昔、老いて衰えることを恐れた魔術師が生み出した秘術の成れの果て。

 それが現代に呪いとなって渦巻いている。

 

 普通の神経をしていたらこんなもんに騙されないんだが、世の中にはこいつみたいなバカはうようよいる。

 詐欺に騙される奴がいなくならないのと同じだ。 


「アルス様、あいつはアタシがやってやるよ」

「いや、ボクだね」

「麗しの妹は下がっていろ!」


 あんなアンデッドを取り合ってんじゃねえよ。

 それより敵はあいつだけじゃないだろう。

 その証拠に新たに五つの影が砦内に入ってきた。


 あのルーシェルの監視をかいくぐってきたんだ。かなりの手練れだろう。

 間もなくそいつらが姿を現した。


「おいおい、なんだよありゃ」

「ありゃアンデッドだねぇ。ディズマの奴、やりやがったんだよ。いくら戦争屋でもありゃ悲しい。オレぁ悲しいよ」

「んー、でもディズマがやったって根拠はあるんですかね?」


 あいつらは確か戦争屋ブラザーズか。

 なかなかの奴らを雇ったもんだな。

 ゲームだともっと後で戦うことになる難ボスだったはずだ。


 で、それはいいんだが。

 その近くに見覚えのある奴らがいるんだが?


「人々の希望を挫く賊達! この白盾のレティシアと……」

「灼眼のリリーシャが!」

「「私達、冷血シスターズが! 天に代わってしばく!」」


 この名乗りのせいで場が静まった。

 戦争屋ブラザーズどころかあのアンデッドすらクエスチョンマークを浮かべているぞ。


「……お前達、なにしてんの?」

「は? ルーシェル? ウソでしょ? なんでここに?」

「こっちのセリフだよ。そんなのとつるむほど落ちぶれちゃったんだね。ねぇアルス様?」


 オレは何も言えなかった。

 これはなんか突っ込んだら負けな気がしたからだ。

 というかどこから突っ込めばいいんだよ。誰か教えろや。


「アルス様? そこにいるのはア、ア、アルフィスじゃない! なんでこんなところに!?」

「待ってくださいッ!」


 レティシアがリリーシャを止めた。

 はいはい、次は何よ。


「レティシア、どうしたのよ」

「今、ルーシェルさん……に似た何かはアルス様と言いました。本物がアルフィスさんの名前を間違えるわけがありません」

「はっ! そ、そういえば! じゃあ、あそこにいるのは!?」

「おそらく偽物でしょう」

「偽物……! 危うく騙されるところだったわ!」


 おい、なんか想像以上のクソ展開なんだが?

 アルス呼びをやめさせなかったオレにも責任は当然ある。

 だけどあのレティシアの思い込みの強さはもはや病的だろ。

 流されてる奴も同レベルのバカだけどな。


「バカなことを言うな。オレはアルフィスだよ。お前ら、なにをしてるんだ」

「黙りなさい! アルフィス様の名を騙る不届きもの! それ以上、アルフィスさんの姿で口を開かないでください!」

「マジでキレていいか?」

「それに本物なら剣を持っているはずです!」

「あぁもうオレのバカ」

 

 ここにきて剣が没収済みなのが響いたか。

 しっかしアレだよ。満を持して登場した戦争屋ブラザーズの身にもなってみろ。

 あれから一言も喋らずにめっちゃ居心地が悪そうだぞ。

 アンデッドのほうなんか完全に空気化して、今か今かと剣をがっしゃんがっしゃん鳴らしていた。


「……そろそろいいカ?」

「もうめんどくせぇからまとめてかかってこいや」


 戦争屋ブラザーズもアンデッドも冷血シスターズもしばいてやる。

 武器なしでこいつら相手ならちょうどいい戦いになるだろう。たぶん。

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