とりあえず手向山
平井敦史
第1話
「とりあえず
そんな言い回しが
とりあえず〇〇しようか、と言いたい時に、「とりあえず
「で、『とりあえずたむけん』てどういう意味だっけ?」
放課後、何となく教室に残って話をしていたら、「
優子と私、「
「……『たむけん』じゃなくて『
「百人一首の中にそれっぽいのがあったのは覚えてるけど」
「その程度の認識しかないの? 大会の前にはクラス皆で覚えたでしょうに。
「カンケさん?」
「
「あー、知ってる。京都の
ほう、優子にしてはよく知ってるじゃないの、などと思ったら……、
「でも、神様も和歌を
微妙に馬鹿っぽいことを言い出した。やっぱり優子だ。
「死後に神様として
「へえ。で、歌はどういう意味?」
さすがに私も、百人一首の和歌の詳しい意味までは知らないわよ
「スマホで調べなさいよ」
それもそっか、と言って優子はやたらとデコったスマホを取り出し、検索し出したけれど、
「うん、色々書いてあるけどよくわかんない。要するに『
やれやれ、世話が焼ける。私も自分のスマホで調べてみた。
「……道真公が、
「
「『
「えー、めんどくさい」
私、切れていいかな?
まあ、優子はいつもこんな調子なんだけどね。
何だかんだ言いながら、付き合いが続いている。
私が不機嫌になったことを察したのか、優子はかばんからチョコビスケットの箱を取り出し、一つ差し出した。
「アル〇ォート食べる?」
まーたこの子は学校にお菓子を持って来て。
と言いつつ、私もいつも分けてもらって食べてるんだけど。
「ありがと」
「で、結局この歌は何が言いたいの?」
そう端的に聞かれるとなあ。
「山々の紅葉が綺麗でした、ってことかな」
「それだけ言うために持って回るねぇ。百人一首には恋の歌とかもいっぱいあるみたいだけど、要するに『好きです』とか『会えなくてつらいです』とか一言で済むのが多くない?」
「いや、そう言ってしまったら身も蓋も無いでしょ」
私は嫌いじゃないけどな。一言で済むところを、技巧を凝らして持って回った和歌を詠み、相手に気持ちを伝えようとする昔の人たちの感性。
「美由紀もさ、あまり深く考えないで、とりあえず
あー、その話になる?
先日、隣のクラスの
「そういうあんたは、軽いノリで付き合い出したらどんどん深みにはまって行って、挙句に振られて泣きを見るパターンの繰り返しでしょうが」
「いいの。あたしは恋に生きる女だから」
「『
「異世界転生?」
どんな耳してんだか。
「伊勢」というのは平安時代の女性歌人で、百人一首にも「
うん、優子もそんな感じなんだよな。
「とりあえず
怒涛のように去って行った。まったく、あの子ったら。
でも、私とあの子、どちらが正解ということはないのだろう。
とりあえず
――Fin.
-----------------------------------------------------------------------
優子は惚れっぽい性格ながら一度惚れた相手には一途なのですが、いささか情が深すぎるゆえに相手に引かれてしまう、というパターンをこの後も繰り返し、太郎との一件では心に深い傷を残すことになります。
しかし藤田と付き合いだしてからは、お調子者だけど懐の深い彼に受け止められ、結婚して幸せに過ごしています。
一方美由紀は、男友達はいても心底好きになれる相手とは中々めぐり会えない、という状況が続きます。
彼女のその後も、いずれ書きたいと思っています。
とりあえず手向山 平井敦史 @Hirai_Atsushi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます