うどん転生 完成

「な、何だお前は! 何処から現れた!!」


 ワルーデが突然現れた俺に対して何かしら騒いでいるが、とりあえず今は無視。

 実に久しぶりとなる屈伸をしながら体が動く事を確認する。


「よし」

「よし。じゃ無い! というか本当にうどんか!? 人間になってるけど!?」

「な、何がどうしてそうなったんですか!?」

「ちょっとココ! アンタも呆けてないで何か」

「うどん様……」

「よし! ダメになってるわね!」


 三人が俺の姿について怒涛のツッコミを入れているが、何を言っているのだろうか?

 どこからどう見てもうどん。


「いやうどんに手足はねぇし! 髪の毛ねぇし! 言葉は話せなぇし! 何ならカッコ良すぎて何かムカつくし!!」


 ライがゼェゼェ言いながら怒涛のツッコミをしてる。

 というか心の声まで拾わなくてもいいのだが。

 まあ、からかうのはここまでして俺は三人にステータスを開示する。


「これが一体何だって……ん?」

「ん? 職業がうどん(冷・温)からうどん(超)となっている!?」

「もしかしてさっきの攻撃で!」

「みたいだな。どうやら高威力の炎を受ける事が条件だったらしい。スキルを見て見ろ」

「あ! 『人体模倣(うどん)』が発動中になってるぜ!」


 そう俺がこうして人の体になっているのも、スキルのお陰である。

 相変わらず嗅覚そして多分味覚は機能していないが、それ以外はほぼ人間である。


「と言うよりうどんさん。どうしてあの魔法を耐えられたんです?」

「そうよね。私から見てもとても耐えられるとは思えないけど」

「攻撃を受けた瞬間に一部を切り離して衝撃を緩和させたんだ。賭けだったけどな」


 俺の説明にケビンとミーシャが納得していると、ライが笑みを浮かべる。


「まあ何にせよ無事でよかったぜ! これからうどんも人間、いやスーパーうどん人だな!」

「気持ちは嬉しいがその呼び方はやめてくれ。どこかで怒られそうだ」

「折角だしうどんさんのお祝いにどこかで飲むか?」

「いいわねそれ。ほら、ココも行くわよ」

「うどん様……」


 こうして俺たちは祝いのためにその場を離れて……。


「ちょ、ちょっと待て!? 我を放置するな!?」

「何だよ、空気読めよ空気」

「水を差さないで欲しいですね」

「そうよ。折角の祝いムードが台無しになるじゃない」

「邪魔ですね」

「あ、スミマセン。……あれ? これ我が悪いの?」


 四人の言葉にワルーデが混乱しているので、とりあえずこのままお引き取り願おう。


「では我々は用があるので、また後日と言う事で」

「あ、はいお気をつけて。……って! そんな訳に行くかーー!!」

「あ、やっぱり?」


 顔を真っ赤にしながら俺たちを睨みつけるワルーデはスケルトンたちに指示を出す。


「こいつらを始末しろ!」


 その指示の下に、スケルトンたちが突撃してくる。

 迎え撃とうとするライたちを手で制する。


「おりゃ!」


 掛け声と共に振るった拳によって、スケルトンは三体まとめて粉砕される。


「ば、バカな! 拳で三体のスケルトンを!? あんな体のどこにそんな力が!?」

「……コシの違いだ」


 俺の体は人間のように見えてはいるが、その全てはうどんで出来ている。

 そして新たなスキル『コシ強化』によって硬さも柔軟性も上がったうどんは、下手な筋肉よりも力を出す事が出来るのだ。


「訳の分からない事を! なら魔法で消し飛ばしてやる!」


 ワルーデは先ほどと同じ、いやそれ以上の魔力を込めた炎を俺に向けて放つ。


「喰らえ! 『地獄の猛炎』!」


 迫り来る特大の炎を、俺は避ける事なく正面から受け止める。

 辺り一帯に爆風が広がり、スケルトンたちが吹き飛んでいるようである。


「グハハハハ! 見たか! 我に逆らう者はみな……」

「どうした? 続きを言っても良いんだぞ?」

「き、ききききき貴様!? 何故立っていられる!?」


 おそらく使える中で最大の魔法だったのか、動揺を隠せていないワルーデに俺は簡単に説明する。


「人なら炭になるだろう。モンスターなら塵になるだろう。だが、うどんは焼きうどんになるだけだ」

「訳が分からんのだが!?」


 まあ実際はスキル『耐熱(うどん)』にようところが大きいのだが、一々説明してやる義理はない。


「覚悟するんだな。お前の魔法は俺には届かない」

「くっ! こうなれば! 『バリア』!!」


 そうワルーデが唱えると、透明な膜のようなものが奴の周りを覆っていく。

 同時にスケルトンたちがこちらに向かって迫ってくる。


「物量作戦か」

「そのとーり! スケルトンたちで体力をすり減らしてやる!」

「ちっ! 小者臭い手だぜ!」

「だが確実な手だ。こうなったら一気に奴を」


 ケビンが予備の短剣で戦いながらそう立案するが、ワルーデは笑いながら何故か説明する。


「グハハハハ! 俺の『バリア』は強力だ! ミノタウロスの一撃にも耐えた事があるからな!」

「悔しいけど本当みたいよ! 相当魔力を込めているわ!」

「加えてスケルトンによる妨害、一筋縄では……」


 ミーシャとココが弱気とも取れる発言をするのに対し、何も言えないでいた。


(おそらく俺ならば破れる。だがその間に四人が危ない)


 流石にあのバリアを破るためには力を込める必要がある。

 だがそうなるとライたちがかなり危険だ。

 その上ライは怪我を負っているし、ケビンは本来の武器ではない。


(せめてあと一手あれば、安心できるんだが……)


 ウオォォォォン!!


 そんな俺の悩みを引き飛ばすように、遠吠えと共に頼もしい仲間が向こうからスケルトンを弾き飛ばしてやってくる。


「タロ!」

「うおっ! 何なのだこのオオカミは!?」


 状況が分かっているのか、タロは真っ直ぐこっちにやって来て四人を守るように陣取る。


「タロ。四人を頼む」


 ウォン!!


「う、うどんだって分かってるのか?」

「みたいだな」

「匂い、なのかしら」

「……負けません」


 そんな四人の言葉をバックにしながら、俺は一気にワルーデに近づく。


「ふ、ふん! 破られるものならやってみろ!」

「では、遠慮なく」


 ワルーデの言葉に軽く返しながら、俺は精神を集中させていく。


(『コシ強化』最大、『魔力コーティング』最大。そして右腕にうどんを集中)

「な、何だその腕は!?」


 うどんを右腕に集中させすぎて、異形の姿となった俺に怯えたようにワルーデは問いかける。


「一体何なんなのだ!? お前は!?」

「……うどんだ」


 そう答えると同時に、俺は右腕をワルーデに振るう。

 純粋な右ストレート。

 だが敢えて名前を付けるのであれば、シンプルにこう言おう。


「『うどん! インパクト!』」

「ぎゃああああああ!?」


 俺の右腕は軽々とバリアを突き破り、ワルーデを吹き飛ばす。

 どうやら二重に貼っていたため直撃は避けたようだが、拳圧で遠くにある水路にまでその巨体は吹き飛ばされた。

 同時に気絶でもしたのか、スケルトンたちは自壊していった。


「ふう」


 一息つくと同時に、俺の体またうどんの塊へと戻っていった。


「あ、戻った」

「時間制限があるらしい。戦闘も含めたら十分が限度だな」

「でも声は普通に聞こえるわね」

「スキル『意思疎通』のお陰だな。他にもうどん(超)になった事でスキルが解放されてるみたいだ」

「素敵ですうどん様!」

 ウオォン!


 そんな事を話している間に、ここの兵士たちだろうか? 大勢の鎧を着た者たちがやって来る。


「ったく。やっとご到着かよ」

「ここは逃げるぞ。うどんさんの説明を信じてもらえるか分からないからな」

「……その意見には賛成だが、もう遅いらしい」


 既に反対方向からも兵士たちが来ており、どこにも逃げ場がない状況になっている。

 兵士たちは武器を構える訳ではないが、逃がすつもりもないらしい。


「何なんだよこいつら」

「少なくとも簡単に帰してもらえる雰囲気じゃないわね」

「どうしましょう」

 グルルルルル


 そうこうしている内に、兵士たちが道を空ける。

 するとその向こうからやって来たのは、明らかに高位を思わせる服装をした五人の男たちであった。


「誰だ?」


 俺の疑問に対して、ケビンは驚きながら説明する。


「この『ウィート王国』の中枢を取り仕切る、通称五賢人ですね。初めて見ました」

「つまり大物って事だな」


 どんな難癖をつけられるか身構えていると、その五賢人は何と。


「「「「「はい!?」」」」」


 頭をまるで臣下の礼の如く俺たちに下げてきたのだ。

 そして続くように兵士たちも敬礼してくる。


「こ、これは?」


 その疑問に反応したが如く、五賢人の一人がうやうやしく言葉を発する。


「お待ちしてしておりました。救世主たるうどん様」

「……はい?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 曰く、『コナモン』に危機が訪れた時。

 四人と一匹の仲間を引き連れたうどんがやってくる。

 そのうどんを王にすれば、何やかやで世界は平和になる。

 そんな伝説があるらしい。

 いい加減な伝説だとは思ったが、どうやら元々の王はワルーデ襲来と共にさっさと逃げたらしい。


 まあつまり、今の俺は


「王よ、これに印をお願いいたします」

「ん」


 王となってしまったのだ。

 うどんで印を持ち、書類に印を押す。

 そして次々にやって来る案件に目を通していく。


「ここの治水はまだ終わらないのか? もし手間取るようなら人員を派遣しろ」

「は!」

「この地区は干ばつを受けているから、今年の税はその分を考慮してやれ」

「了解いたしました」

「おー。忙しそうだなうどん」

「ライか」


 執務室にやってきたライは以前とは比べようがないほど立派な鎧に身を包んでいる。

 そして親衛隊長として常に傍にいるタロを撫でながら、報告してくる。


「今日の訓練は終わったぜ。皆がお前のためになろうと必死だ」

「その為に善政を布いているんだ。そうでないと困る」

「悲しい事言うなよケビン」


 すっかり文官としての姿が身についたケビンがやってくると、同じくミーシャも入ってきた。


「まあでもいい事じゃない? こうして皆が笑顔なら」

「ミーシャ。高品質ポーションの量産は?」

「順調よ。まあほとんどワルーデの成果だけどね」


 そう、あの事件の首謀者であるワルーデも今では城でお勤め中なのだ。

 聞けば貧困層の出身で、王族打倒に乗り込んだらしい。

 そして今は罪滅ぼしもかねて、新薬の研究をしてもらっている。


「……で? ココは?」

「……いつもどおりよ」


 そう言うとミーシャは遠見の魔法を展開する。

 そこには。


「救世主うどん様を崇めましょう! うどん様万歳! うどん様こそ正義!」


 そう言いながらうどん教と書かれたビラを配っているココの姿があった。


「「「「……」」」」


 俺たちは黙ったままその惨状から目をそらし、会話を続ける。


「すまないな三人共。結局付き合ってもらって」

「気にしないでくれ」

「そうそう。これはこれで充実してるしな!」

「乗りかかった船だしね。……それに、アレを放置しておく訳には行かないでしょ」


 そう言うミーシャの視線の先には、警備兵に連行されるココの姿が写っていた。


「……ありがとう」


 そんな俺の言葉に、三人は優しい笑みを返す。

 タロの背中をうどんで撫でながら、俺はこの国を平和に。


「緊急です! 隣国の『オオマメ』が豆腐に支配されました!」

「「「「え?」」」」


 ……どうやら、まだまだ前途多難らしい。



 これはうどんに転生した男が覇王と呼ばれる物語、その序章なのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

うどん転生ー後に覇王と呼ばれたうどんー 蒼色ノ狐 @aoirofox

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ