うどん転生 切り

「はー、やっぱり首都は人が多いな!」

「ちょっと、あんまりキョロキョロしないでよ! 田舎者まる出しじゃない!」

「ライの気持ちも分かるがな。ここまでとは」

「ひ、人に流されそうです」


 四人は首都であるコナモンの大通りを歩いている。

 どうやら四人共首都は初めてらしく、人や周りの建物に圧倒されている。

 ん? 俺?


 もちろん俺も一緒に行動している。

 体の大部分を城外の空き地に切り分けておいて、ミーシャの頭の上に乗ってその上から帽子を被るという方法だ。

 ココが立候補していたが、ご遠慮いただいた。

 流石にタロは連れてくるわけはいかないので、俺の体(うどん)の護衛をしてもらっている。

 四人は適当にお茶を飲ませる店に入ると、話し合いを始める。


「さて今後についてだが。……金が無い」

「? この間の報酬、まだ残ってるだろ?」


 ケビンの言葉にライだけではなく、女子二人も不思議そうにする。

 俺は人形です。

 みたいな振りをしてテーブルに置かれていた俺は文字を浮かべさせる。


『田舎と首都では物価が違う。そう言う事か?』

「流石ですねうどんさん。例えばここのお茶代だが……」

「「高!?」」

「こ、こんなに違うものなのですね」


 あまりの値段の違いに三人が絶句している中、ケビンはさらに現実を言う。


「お茶一つでこれなんだ。俺の弓の新調や今後の活動資金を考えれば、金はいくらあっても足りない」

「けど、私たちみたいな弱小クランに仕事なんて来る?」


 ミーシャがそう不安げに聞くと、ケビンは深くため息を吐く。


「問題はそこだ。最悪、仕事が来る前に全員が飢えて……。そんな結末すらありえる」

「い、嫌な事言うなよ」


 ライがそう怯えたように言うが、空気は変わらない。

 何せ現状を考えれば、あり得ない事ではないのだから。

 そしてその結末を回避するには。


「他でお金を稼ぐしか、ありませんよね」


 そう。

 ココの言う通り、他で路銀を稼ぐしかない。

 だが、それはそれで問題がある。


「だがそうなると、どう稼ぐかだが……。やはり日雇いのバイトをコツコツとぐらいしか」

「それ、安定するまで時間が掛からない?」

「だが、一発当てようにも俺たちにはそれだけの知識も資本もない」

「「「……」」」」


 そこから四人は黙り込んでしまう。

 現実という壁に打ちのめられるのは世の常だが、流石に世話になっておいて放っておくほど人情は捨ててない。

 ……うどんだけど。


『仕方ない』

「? うどんどうした?」

『上手く行けば手早く路銀を稼げる方法が、ある』

「そ、それは一体!?」

『だがその前に情報収集だ。ミーシャ、手伝ってもらうぞ』

「いいけど……何をする気なのか教えてよ」

『単純な話だ』

「うどんさん?」


 全員が俺の方を見ているのを確認して、文字を浮き上がらせる。


『俺を売ればいい』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 —―その翌日


 大通りから少し離れた、普段なら素通りされるような一角。

 だが今日はそこに多くの人が並んでいた。

 全員が目的にしているのはただ一つ。

 本日限定と書かれた旗を掲げた、その店の名は。


『立ち食いうどん うどんさん』


 そしてそこで働いているのは。


「ライ! 関東風をあと十杯追加で!」

「ケビンさん! 関西風も十杯入りました!」

「き、休憩してー!」

「文句言う暇があれば手を動かせ!」


 ライたちであった。

 うどんを麺状に切るライ。

 そのうどんを茹でて丼に盛り付けるケビン。

 そして接客をしているミーシャとココの四人で切り盛りしてる。


 ……いや、四人では多少語弊がある。

 何も言わず、黙々とダシを注ぐ。

 そんな存在がいた。


(『ダシ召喚』! 『ダシ召喚』!! 『ダシ召喚』!!!)


 まあぶっちゃけ俺ことうどんな訳だが。

 適当に空いている狭い物件を一日だけ借り、俺……というかうどんを販売する。

 それが俺の出した提案であった。

 何せ材料のほとんどがタダなのだ。

 具無しの素うどんならば、ほぼ利益状態となる。

 さらに俺はそれを格安で販売したのである。


「何でだ? 高く売った方が利益出るんじゃねぇか?」


 とライは不思議そうであったが、世の中には薄利多売という言葉がある。

 さらに貧困の差が激しいのであれば、安くした方が客が増えると見込んだ。

 そして昨日ミーシャと共に見て回った結果、おいしい店はあっても待っている暇がないほど忙しい者が目立った。

 そこで客の回転が早い立ち食いを提案したのだ。


 結果は見ての通り、大繁盛だ。

 どうやら俺のうどんは上手いらしく、そこも評判となっているらしい。

 朝から昼までの時間帯だけにしていたが、全員が休む間も無く働き続けている。

 そうして俺も、さっきからひたすら『ダシ召喚』を続けている。


「関東風と関西風! 両方あと十杯お願い!」


 ……長い昼になりそうだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「つ、疲れた……もう腕が上がらねぇ」

「私も、うどんはもう運びたくない」


 ライとミーシャが脱力しながら簡易的なテーブルに突っ伏す。

 言葉にはしないが、ケビンもココも同じようである。


「で、ですけど。これで資金も溜まりました、よね」

「ああ。大まかにしか分からないが、想定より売れたのは間違いない」


 ケビンの言う通り。

 想定していた以上にうどんが売れたので、用意したのが無くなってしまうのではと心配になったほどである。

 タロが守っている方もお陰でだいぶ減ってしまった。


『だがこれで当面の資金の問題はなくなった。あとはクランとしての頑張りしだいだ』

「うどんさんの言う通り、ここからが始まりだ」


 ケビンはそう言いながら、ふらつく身体を立ち上がらせる。


「ここからは純粋に実力勝負だ。何度も同じ手を使う訳にはいかないしな」

「けど、やっぱりクランとしての知名度の無さは問題よねー」


 ミーシャのその言葉に、誰もが押し黙る。

 四人共決して弱い訳ではないと思うが、何せ知名度は皆無といってもいい。

 実力を示す機会、それが必要なのだ。


「あーあ。何か大きな事件でも起こってくれねぇかな?」

「ライさん。そんな事を言う物ではありませんよ? そんな事を言っていると本当に何か良くない事が」


 キャァーーー!!


「起こり、ますよ……」

「いまの、悲鳴よね」


 その言葉と共に、四人は一斉に外に飛び出す。

 そこには多くの人々が、一目散に逃げ出しているのが分かる。


「何が起こっているんだ!?」

「分かんねぇけど、突っ立っている訳にもいかねぇだろ!」


 そう言いながらライは剣と盾を持って大通りに飛び出していく。


「ちぃ! ライの奴! こっちは武器をまだ買ってないんだぞ!」

「ココ! 私たちも行くわよ!」

「はい!」


 ライを追いかけるように、三人共走り出す。

 俺はココの背中に引っ付くようにしがみ付く。


「うおっ!」


 そして見たのはライが吹き飛ばされる瞬間であった。

 近くの建物に落ちたライは痛みのためか呻いているが、命は何とかありそうである。


「グハハハハ! その程度の実力で我が前に立ちふさがろうとは笑わせる!!」


 そう如何にも悪役な笑い声を、高らかに響かせているのは。

 ガマガエルとオークを足して割ったような、そんな変な生き物であった。

 そしてそいつは、誰も頼んでもいないのにも関わらず自己紹介をし始めた。


「愚かな人間共よ聞け! 我は大魔法使いワルーデ! 今日からここは我が領土となるのだ!!」

(なんてテンプレ的な名前!! というか人間なのか!? 新種のモンスターかと思ったぞ!?)


 と心の中で突っ込むが、状況的にはマズい。

 ワルーデの周りにはスケルトンが取り囲んでおり、簡単には近づけそうにない。

 増援を期待する他ないが、他の所からも黒煙が上がっているところから別動隊が恐らくいるのだろう。

 つまり、ここにまで助けが来るかは微妙である。

 だが、状況はさらに最悪になった。


「(ぐす)お母さん、どこ?」

「「「「!!」」」」

(逃げ遅れか!?)


 親とはぐれたのか、子どもが一人でこちらに向いて歩いてくる。


「ほう?」


 ワルーデは子どもを見つけるとニヤッと笑い、杖を向ける。


「危ない!!」

「ココ!!」


 ココは誰よりも先に走りだし、子どもを救出を試みる。

 だが。


「グハハハハ! いいだろう! その精神に免じて諸共吹き飛ばしてやろう!」


 うどんでも分かるような魔力の高まりをワルーデから感じた。

 このままでは奴の言う通り、ココと子どもは跡形もなくなるだろう。


 —―だったら、取るべき道は一つだ。


「吹き飛ぶがいい!!」


 ワルーデのその言葉と同時に、巨大な炎の塊がココと子どもに向けて放たれる。

 ココは少しでも子どもに被害が出ないように抱きかかえるが、おそらく無意味。

 他の三人も、スケルトンに阻まれて来れそうにない。

 故に。


「うどんさん!?」


 俺が盾になるのは、当たり前の事なのだ。


『特殊条件をクリアしました』

「……ふう。何とか生き残ったか」


 そう言いながら俺は自分を確認する。

 は問題無し。

 も燃えてない。

 うん。


「よし、何時もの俺だな!」

「「「嘘つけーーー!! 誰だアンターーー!!」」」

「……カッコイイ」

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