うどん転生 伸ばし
「なるほど。グリフォンが怪しい影の正体だった訳ですね」
「ええ。何とか退治する事ができましたので、もう安心かと」
吾輩はうどんである、名前はまだない。
俺の視界の先では村長らしき老人とケビンが話をしている。
予め用意しておいた作り話を、村長や周りの村民たちは疑うことなく信じて行く。
……まさか意思のあるうどんが動いてました! なんて真実を言う訳もいかないから助かるが。
ところで、俺いま村の入り口辺りで他の三人と一緒に待機している。
グリフォンのとの戦いでそれなりにうどんを消費したが、それでも俺の体は巨大だ。
そんな俺が堂々と姿を現しているのに、騒ぎになる様子はない。
何故か。
それは今の俺の姿は、うどんではなく。
「ところで、やけに大きな馬ですな。それにやけに白い」
「は、はは。自慢の白馬です」
馬なのだ。
俺の今の姿は、一見すればやけに白い馬と荷車。
だがその実態はうどんという、もう訳が分からない状況となっている。
グリフォンを共に倒した俺とライたちは、今後も行動する事を決めた。
だがそうなると問題になってくるのは、俺のこの姿である。
生地状態だろうとうどん状態だろうと、目立つ事この上ない。
移動中は良くとも、もし門番がいる街ならば止められる事間違いなしだ。
「いい案があります」
そう何故か顔を赤らめながら大きく手を上げるココに、全員が嫌な予感がする。
だが止める間もなく、ココは自信満々でその案を口にする。
「うどんさんが私の体に巻き付けばいいんです、そうまるで荒縄のように。荒縄のように!」
ある程度予想していたとは言え、どう返していいか分からない男性陣(+うどん)より先にミーシャが呆れたように言葉を吐く。
「そんなに好きなら本物の縄を巻いときなさよ」
そんな、ごもっともな言葉に対しココは。
「何を言っているんですかミーシャさん! 縄では駄目です! あの力を込めたら引きちぎれそうなのに引きちぎれない、そんな絶妙な強さを持つうどんさんだからいいんじゃないですか! ま、まあ私は別に緊縛が好きというわけではありませんが一般論としてですけどね! そ、それに体がうどんとは言え殿方が巻き付いているのに興奮しない方が逆に失礼なのではないでしょうか!? いえそもそも!」
「分かった! 分かったから落ち着いて!」
一気にまくし立て、ゼェゼェと息を荒く吐くココ。
そんな彼女にちょっと、いやかなり引いている昔馴染み三人をみてココは少し怒ったように口にする。
「じゃあ他にうどんさんをどう移動させるんです?」
と無駄に確信をついた言葉に、押し黙る三人。
確かに、他に解決方法がないのならマシなのかも知れない。
……他の方法がなければ、だが。
『問題ない』
「……え?」
『少し強引だが、誤魔化す方法が俺にはある』
「そんなぁーーーーーー!?」
その時のココの表情はまさに、魔王が旅の序盤に現れた勇者のような絶望顔であった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そしてその解決策というのがコレである。
グリフォンとの戦いで得たスキル『自由形成』。
読んで字の如く自分の体をある程度自由な形にできる、直接戦闘には関係なさそうなスキル。
だがタイミング的にはナイスだった。
こうして大きな荷馬車のように振る舞う事が出来るのだから。
ちなみタロは荷車部分でお休み中である。
「では、こちらが報酬となります」
「? 少し多いですが?」
「いえいえ。グリフォンという上級モンスターを倒してもらったのです、少ないぐらいかと」
「ありがとうございます。では、遠慮なく」
ケビンがその報酬を受け取ると、村長はため息を吐きながらある一点を見つめる。
「全く。こんな若い方々が頑張ったというのに、奴ときたら」
「? 奴とは」
「おっと失礼。実はこの村には勇者であった男がいるのですが、突然旅から帰って来たと思ったら。『これからは料理の時代だ!』と言い始めまして」
「はぁ」
「普通に料理するならまだしも、あれやこれやと変な材料を混ぜるのです。お陰で村が何度騒ぎになったか」
凄く、とても凄く嫌な予感がして俺は視覚情報を広げ村を見る。
断定は出来ないが、あの時見た村の景色と似てる……気がする。
(いや、でもまさかそんな)
別に此処に戻るのは良いが、そうなると一点だけ受け入れがたい事実がある。
脳内(うどんだが)の考えを打ち消すように努力していると、向こうから親子らしき影がみえた。
「いやー! 今日も怒られてしまったな、息子よ!」
「もう普通に料理しなよ父さん。いい加減に村を追い出されるよ?」
「何を言う! 食の追及に犠牲は付き物だぞ!」
「家が吹き飛ぶような犠牲は要らないんだよ」
そんな聞き覚えのある声が嫌でも聞こえてしまい、嫌でもその事実を受け入れなければならなかった。
(お前勇者だったんかーーーい!!)
この世界に来て、自分がうどんになった事の次に受け入れたがたい真実だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その後は何事もなく俺たちは村を離れると、全員が俺に乗り込み道を進んでいた。
「うひゃー! 快適だな!」
「ホント、うどんに感謝しないとね」
「……うどんさんのおバカ」
「まだ拗ねてるの、ココ」
そんな会話を荷車部分で会話しているライたち三人。
暇そうにしているタロの横で、楽しく会話しているのを釘を差すように馬の部分にまたがっているケビンが口を開く。
「気を抜き過ぎないようにしろよ。街道沿いとは言え、いつモンスターがやって来るか分からないぞ」
「分かってるって。けどよ、うどんのお陰で首都まであっという間なんだ。少しぐらい気を抜いてもいいだろ?」
「……本当に少しにしとけよ?」
そうなのだ。
俺たちはいま、この一帯を治めている国の首都へと向かっている最中なのである。
聞けばこの国の貧困の差は激しいらしく、今後の仕事を考えれば首都に移動した方がいいと全員が判断した。
あの村から首都まではそれなりに距離があったが、この形態ならば不審がられる心配もなく速く移動できたのは幸いだった。
「でも本当にうどんはすげぇと思うぜ」
「何よいきなり」
「いや、グリフォンの時もそうだけどよぉ。何かこう、うどんだけどそんなハンデものともしない感じとかさ」
「あー、それは言えてるかも。私が同じ立場ならすぐに諦めそう」
「……そうですね。諦めない、言うならコシの強さがうどんさんの強みだと思います」
「そうだな。それに知恵も回る」
何故か俺を称賛する流れになっており、気恥ずかしいやら何やらである。
だが、ふとライが思いついたように疑問を口にする。
「なあ。今うどんは自由に形を変えられるんだろ? 人間の姿でもいけるんじゃねぇの?」
「それは良い案かも知れませんね。首都の中では流石に馬では」
「いや、無理でしょ」
「何でだよ」
「二人とも忘れたか? 形を作れてるだけで、本質的にはうどんのままなんだぞ。顔がない状態で歩かせる気か?」
「「あ」」
ミーシャとケビンの言う通り、いま俺は大まかな形を取れてるだけで近くから見たら馬とはほど遠い。
もし人の姿を取ろうものなら、良くて人形。
悪かったらそれこそ顔がない状態になるだろう。
「いい案だと思ったんだけどな~。きっとイケメンになるぜ? 麺だけに」
「十点」
そんな会話をしながら、進んで行くこと数時間。
途中休憩を挟みながら、俺たちは首都までもう少しという所まで来ていた。
「で? 首都についたらうどんはどうするんだよ?」
「それについては案があるそうだ。まず首都が見えたら安全で場所が広い場所を探す」
「……な、何でしたら私に巻き付いてもらっても」
「いい加減に諦めなさいよ」
そう最終確認を取りながら走っていると、少し先に城壁のようなものが見えてきた。
……しかし。
「見えたぞ。あそこが『ウィート王国』の首都、『コナモン』だ」
首都の名前、もっとマシな名前なかったのか?
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