うどん転生 熟成

「なるほど。つまりアナタはうどんに人の魂が宿った存在……そう言いたいのですね?」

『そうだ』


 俺はサラサラこと、アーチャーのケビンにそう簡潔に答える。

 どうやらこのメンバーのまとめ役らしく、積極的に俺に質問してくる。


「ってか、本当にうどんかアンタ? パンの化け物にも見えるぜ?」

『同じ小麦粉から生まれるという意味では、間違ってない』


 俺を疑う目で見てくるのは、ツンツンこと戦士のライ。

 ムードメーカーらしい活発さが見て取れる。


「けど少なくともライよりは頭は良さそうよね」

『無知では世の中生き残れないからな』


 そのライを呆れたように見ながら、俺をそう評価するのはツインテールことミーシャ。

 役職はソーサラー、つまりは魔法使いである。


「ミーシャさん、あまり仲間を貶めるような発言はしてはいけませんよ?」

『いい発言だな。……まだうどんを巻き付けてなければだが』


 ミーシャに苦言を呈するのはプリーストのココ。

 言っている事は立派であるが、力を込めてないのに未だにうどんを体に巻き付けて顔を赤らめているので台無しである。

 聞いた限りの情報だと、四人は近くにある村で共に育った幼馴染らしい。

 そして一旗揚げようとクランを設立したらしい。


『……で? 俺をどうする気だ?』


 一先ずの情報交換を終え、俺は本題を切り出す。

 彼らがどうするつもりか、それによって俺の今後も決まる。


「……少し相談させてくれ」


 ケビンはそう言うと、他の三人を集めて今後を話し合い始める。

 失礼だとは思うが、俺も聞き耳を立てる(うどんだけど)。


「さて、どうする?」

「どうするも何も、そもそもあんなパンの化け物の言う事信じるのかよ」

「いや、うどんって言ってるじゃないさっきから」

「そうです! パンにあんな気持ちよく、ではなく! あんな事が出来るとは思えません!」

「……とりあえずココはうどんを振りほどきなさいよ」

「……(しょぼん)」

「そんな名残惜しいような目をしないでよ。今後の付き合いを考え直しそう」


 何か話が脱線しかかってはいる。

 ココは本当に未練がましい感じで体のうどんを取り除く。

 それを見たケビンは真剣な様子で、全員に確認を取る。


「アレの正体はともかく、俺は嘘は言ってないと思う。話に一貫性があった」

「けどよ、素直に信じる気になれねぇんだよな~」

「ライと同じ意見なのは不服だけど、確かにもう少し慎重になるべきだと思う」

「うどんであろうと何であろうと、私も彼は信じるに値すると思います」

「……割れたな」


 どうやら二対二で意見が割れているようである。

 俺は様子を見ようとしていたが、突然タロが空に向かって吠え始める。


(タロ? 一体どうし……っ!)


 その方向を確認した瞬間、俺は急いでタロと四人を包み込むように広がる。


「っ! いきなり何を!」

「やっぱり俺たちを食べるつもりか!?」

「ちょっ!? うどんに食べられるとか嫌なんだけど!?」

「こ、これはこれで……」


 それぞれが反応する中、俺はすぐにその状態を解除する。

 すると視界が広がり、四人共状況がつかめたらしい。


「あ、あれは! グリフォン!?」

「ど、どうして上級モンスターがこんな所に!?」


 そう、空を飛んでコチラを睨みつけている存在。

 モンスターの中でも有名な部類に入る、グリフォンであった。

 俺はまるでナイフのように飛んで来た羽根を振り落とす。


「お、お前。もしかして助けてくれたのか?」

「どうして……」


 俺に否定的だったライとミーシャが驚いたように聞いて来るのに対し、俺は体で文字を表す。


『気にするな。人が目の前でやられるのを目にしたくないだけだ』

「……うどんの癖にかっこつけやがって」


 そう言うとライは俺より前に出て、グリフォンを迎え撃つ体制に入る。


「ライ!」

「あんなのに逃げられる訳ないだろ! だったらここで戦った方がまだマシだぜ! それに……」


 ライはそう言うと、俺の方を見てニヤッと笑う。


「うどんに助けられたままじゃ、カッコ悪いしな!」

「……ま、今回はライの言う事が正しいわね」

「援護します! ライさん!」


 ミーシャとココも杖を構え、戦闘態勢に入る。

 その様子を見てケビンはため息を吐くが、逃げ出す様子はない。


「いまの俺には武器がない。後ろで指示出すしか出来ないぞ?」

「分かってるって! こっちにはうどんも含めたら四人いるんだ! 何とかなるって!」


 ウォン!!


 タロが文句が有り気に吠えながら、誰よりも前に出る。


「あ、悪い悪い! じゃあこの四人と一匹で! グリフォン退治だぜ!」


 うどんとして転生して数日、初めての仲間が出来た瞬間であった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


(喰らえ! うどん! 千鞭撃!)

「『雷の矢』!!」


 複数のうどんをしならせながら空中に伸ばすのと同時に、ミーシャが唱えた魔法がグリフォンに向かう。

 だが、グリフォンがその翼を羽ばたかせて強風を生み出し魔法とうどんを弾き飛ばす。


「ああもう! これで何度目よ!」

『数えるだけ無駄だ。それよりいい案を考えよう』


 既に同じ事が何度も繰り返されており、ミーシャは苛立ちを隠せないでいた。

 そんな様子を、グリフォンはほくそ笑みように空中を旋回して見ている。


「おいケビン! いい案はまだ浮かばないのかよ!」

「急かすな! そんなポンポンいい手が出るもんか!」

「うどんが……」


 一方で、飛んでいる相手には手を出せないライはケビンを急がしているようだ。

 タロはタロで挑発するようにグリフォンに吠えるが、無駄らしい。

 ココは……そっとしておこう。

 結局のところ、グリフォンに攻撃できるのは俺とミーシャだけ。

 そしてどちらも、決め手がない。


(問題は地上に誘導しても、空中に逃げられたら終わりという事だ。そうなった場合の対処は、無理だ)


 つまり一瞬の隙を逃さずに、かつ高火力で仕留めないといけないのである。

 そんな俺の視界に、ポツンと建っている納屋が目に入る。

 それを見て俺の小麦色の脳が回転していくのを感じ、そして一つの案が生み出される。


(……やってみるか)

『お前たち、俺を信じられるか?』

「うどん? こんな状況で何を?」

『うどんである俺を信じられるか、と聞いている』


 ケビンがそれに押し黙るのに対し、真っ先に答えたのはライであった。


「信じるぜ」

「ライ?」

「こうなった以上は一連なんちゃらだ! うどんだろうがパンだろうが信じてやろうぜ!」

「……そうね。賛成」

「うどんさん。どうぞおしゃってください」


 ミーシャとココもライに同意し、残るケビンも静かに頷く。

 それを見て俺は、作戦を伝える。


「……それが本当に逆転の手になるのか?」

『確実とは言えないが、それでも勝算はある』

「分かった。ならうどんの合図で一斉に始めるぞ!」


「「「おー!」」」

 ウォン!


 四人と一匹の声が重なり、意思の疎通が取れたところで俺は作戦の開始を告げる。


『なら作戦……開始!!』


 その言葉と同時に、俺は体を幾つか切り離す。

 それを持ってケビン、ライ、ココ。

 そしてタロは納屋へとダッシュする。

 それを見てグリフォンはそちらに標的を定め、羽根を飛ばしていく。


「させない! 『炎の鞭』!」

(うどんウォール!)


 だがミーシャの火の魔法。

 そして俺が作り出した壁によって羽根は全て防がれる。

 するとグリフォンはまずこちらを目標に定め、攻撃してくる。


「ね、ねぇ! これって私の負担多くない!?」

『それに関しては済まないと思ってる』


 魔法やうどんで羽根は風による攻撃を防ぎながら、俺たちはタイミングが来るのを待つ。


 ウォォォォォン!!


『! 合図だ!』


 タロの合図と共に、作戦は第二段階へと移る。

 納屋に向かっていたメンバーが退避するのを確認して俺はスキルを発動する。


(『ダシ召喚』!)


 するとグリフォンの頭上に、熱々の(今回は関東)のダシが降り注がれる。

 ダメージはないだろうが、翼が濡れて上手く飛べなくなったため地上に降りてきた。

 グリフォンはこちらを。

 いや俺を睨みつけながら突撃してくるが、地上で後れを取る訳にもいかない。

 複数のうどんでグリフォンを拘束し、持ち上げる。

 微々たるものでも、レベルアップした成果であった。


(そーれ!)


 そうして俺は、グリフォンを納屋の方へ投げ飛ばす。

 受け身を取る事すら叶わず、グリフォンは納屋に叩きつけられる。

 すると、納屋に仕舞ってあっただろう小麦粉が空中に舞う。

 と、同時に俺もスキルを発動する。


(『小麦粉戻し』!)


 それにより、運んでもらった俺の一部が小麦粉に戻される。

 結果、空中とグリフォンは小麦粉だらけである。


『今だ!』

「いけぇ! 『炎の飛礫』!」


 ミーシャがそう唱えると、小さな火の塊がグリフォンに向かっていく。

 すると巨大な爆発が起き、辺り一帯を爆風が襲う。


「うぉぉぉぉい! お、おま。ミーシャ! お前いつの間にこんな力を!?」

「し、知らないわよ!? ただの初級魔法よアレ!?」

『粉塵爆破と呼ばれる現象だ。詳しい話は省くが、小麦粉に発火するとああなる』

「うどんさん。博識なんですね!」


 何故か頬を赤く染めながら、俺を称賛するココ。

 爆発の煙が収まると、グリフォンの体は一部しか残ってなかった。

 それを見てライは俺を叩きながら喜びを露わにする。


「やったぜうどん! お前のお陰だ!」

「……そうだな。俺たちだけだったら全滅してただろう」

「ええ。感謝するわね、うどん」

(おお……!)


 この姿では得られるとは思ってなかった称賛に、俺は心を暑くする。

 タロも喜んでいるようで、俺に体を擦りつけてくる。


『レベルアップしました』

(お!)


 どうやら今の戦闘でレベルアップしたらしく、新しくスキルも得たようだ。

 タロやライたちも同じくレベルアップしたようで、ステータスを確認している。


(ま、どうせ役には立ちそうにないスキルなんだろうけど)


 何せ三度も裏切られてきたのだ。

 もうどんなスキルが来ても驚かない。


(鬼が出るか、蛇が出るか。さぁどうだ!)

『自由形成』

(……お?)


 そのスキルの名を見て俺は少しだけ、今後に光が差した気がした。

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