うどん転生 足踏み

  オッス! オラうどん!


 俺がうどんに転生。

 ……転生って言うのか、これ?

 ともかく、転生(仮)してから何度目かの太陽が昇った。


 その間に少しだけ分かった事がある。

 まずここは間違いなく異世界だという事。

 遠目(目はないけど)で見て、小麦を刈りに来た人が魔法を使っていたところから間違いない。

 まあうどんがあるぐらいなので、少なくとも食文化は日本と変わりが無いのかも知れない。


 二つ目は


 ウォン!


 (ん、ありがとうタロ)


 このオオカミ、タロの事である。

 ん? この名前?

 俺が人間の頃に飼っていた犬の名前だ。


 とにかくタロは、賢い。

 元からそういう個体なのか、それとも俺(うどん)を食べた事による突然変異なのかは知らない。

 だが言葉にしなくても(元々口はないが)うどんについたゴミを丁寧に取ったり、対処できない素早いモンスターを倒してくれたりしてくれる。

 それにどうやら俺の事を主人やらリーダーやらと思っているようで、常に傍にいてくれる。


 そして最後に自分自身のことだが。

 完全にうどんだった。

 コアなんてものはなく、例えるなら単細胞生物のような生物。

 いや、うどんとなっている。

 魔法なんて出来ないが、自分を構成しているのが小麦粉と水と塩。

 そして一部の何か分からない材料で出来ている事は分かる。


 もう材料はブラックボックス扱いとして、幸いだったのは視覚と聴覚はうどん全体で感じているようだった。

 つまり特定の部分がある訳ではないので、切られても安心である。


 ……説明したくはないが、やはりコレも説明しとかないといけないだろう。

 どうやらこの世界は、ある程度強くなると自動的に職業やら何やらがアップするらしい。

 その証拠にタロもただのオオカミから長狼とやらになったらしい。

 本人にステータスを見せてもらった。

 ちなみにメスらしい。

 これを何で説明したくないか、それは俺もアップしたからだ。


 —―うどん(冷)から、うどん(冷・温)に。


 やったー! これでホカホカにもなれるぜー!

 とでも言うと思ったんかい!

 人、いやうどんを舐めるのもいい加減しろ!!


 と口があったら吠えてるところだった。

 ちなみにスキルも二つ増えたが。


『ダシ召喚』

『小麦粉戻し』


 である。

 ……なのである(泣)。


 ちなみにダシ召喚は俺に合ったランダムなダシが降り注ぐというもの。

 場所はある程度指定できるが、ただのダシなので嫌がらせ程度にしかならない。

 もう一つの小麦粉戻しは、俺の体の一部を小麦粉に戻すというもの。

 これもただの小麦粉なので、役には立ちそうにない。


 とどのつまり、俺の戦闘力はほぼ変わっていないのである。

 ホント、絶望しかない。

 このスキル得たときは、どうやったら命を絶てるか考えたもの。

 うどんだけど。


 つまり俺が出来る事、それはここにある小麦を吸収して大きくなる事であった。

 大きい事はいい事だと誰かも言っていた。

 そんな、半ばヤケになりながら小麦を吸収していった結果。


(……大きくなりすぎた)


 もはやちょっとした丘クラスの大きさとなった俺を、タロが心配そうに見つめている。

 完全に無計画に吸収しすぎた。

 質量があるから、タロに戦って貰わなくても自力で弱いモンスターは倒せるようになった。

 が、ここまで大きくなると少し動いただけで目立つ。

 実力もないのに目立てば当然やられてしまう。


(どうしたものかなぁ?)


 クゥーン


 タロが同意するように首を傾げると、どこからか声が聞こえてくる。

 その声に混じって、金属が軽くぶつかるような音もする。


 グルルルルル!!


 タロも警戒心を露わにし、俺は確信する。


 —―敵だ。



「ったく。『畑に不気味な巨大な影が』って、曖昧な情報だよなー」

「そう言うな。これも立派な依頼だ」

「そうよ。ただでさえ私たちのような弱小クランでもいいって依頼は少ないんだからね」

「それに皆さんお困りの様子でしたし、人助けは大切です」


 声を聞く限りは男二人に女二人の四人組。

 他にいないことを確認して、俺は視覚情報を最大にする。


「それは分かるけどさ。俺はもっと強くなりたいんだよ」


 そう言って先頭を行くのはツンツンヘアの少年。

 剣や盾を持っているところからすると、戦士か何かだろう。


「だったら鍛錬を怠らない事だな」


 最後尾でツンツンを諫めるサラサラヘアは弓と矢を背中に背負っているので弓使いと思う。


「ホント、アンタって相変わらず口だけは一人前よね」


 そんな風に呆れたようにツンツンを小ばかにするのは、ツインテールの少女。

 杖だけは判断しずらいが、後方職なのは間違いないだろう。


「皆さん、仲良くですよ?」


 そう何処かおっとりと全員に言い含めるのは、如何にも僧侶という衣装を身に纏った金髪ロングの少女である。


 ……俺もこんなパーティーを組みたかった(泣)。


 兎にも角にも、これで相手の全貌は分かった。

 話を聞く限りではそれほど強くはなさそうであるし、ここは撃破して何とか逃げたい所だ。


(お前にも協力してもらうぞ、タロ)


 ウォン!!



「うぉ! デカァ! 何だアレ!?」

「白い、塊のように見えますね」


 そうツンツンと僧侶が感想を向けるのは、当然俺。

 ただ動かずジーとしてる俺を見て、生きてるとは判断しないだろう。


「下手に触るなよ。……それにしてもこんなの、見た事ないぞ?」

「ホント大きいわね。見上げるのが大変なぐらい」


 警戒してるサラサラとツインテールも、段々と俺に近づいて来る。

 こうして四人が無警戒に近づいて来るのをひたすら待つ。

 一歩、二歩、三歩!

 いま!


「っ! あぶねぇ!」


 俺が伸ばした一本のうどん。

 とにかく太く、硬くなったそれを鞭のようにしならせて振るう。

 ツンツンが気づいて盾で防ごうとするが、壊され吹き飛ばす。


「っ!」


 サラサラはすぐさま俺が敵だと判断し、弓に矢を構える。


 ウォォォォォン!


「何!」


 だがその弓を、うどんに潜ませておいたタロが破壊する。

 サラサラは何とかタロを引き離そうとするが、タロはそのまま右腕に噛みつく。


(よくやったタロ!)


 腕を負傷させた以上、サラサラはもう戦力外である。

 あとは。


「い、いま治します! 『癒しの』」

「調子乗らないでよ! 『雷の』」


 何か女子二人が魔法らしきものを唱えようとしている。

 だが、こっちにも対策はある。

 ……正直使うのは嫌だが、仕方ない。


(『ダシ召喚』!)


 そう心で唱えると同時に僧侶とツインテール、二人の頭上からダシ(どうやら今回は関西)が降り注がれる。


「キャァ!?」

「何よこれ!? ダシ!?」


 突然降り注いだダシに、魔法を唱えるのを止めてしまう二人。

 その隙こそ、狙っていたものだ。


「二人とも!」


 サラサラが警告するが、もう遅い。

 二人の下から忍ばせたうどんを縄のように使い、二人を拘束する。

 無論、魔法を使えないように口も縛って。

 ……別に趣味じゃないよ?


「テメェ! 二人を離しやがれ!」


 そこに現れたのは、先ほど吹き飛ばされたツンツン。

 剣を両手で持ちながら、二人を救おうと真っ直ぐ突き進んでくる。


「くらえ! 『アーマーブレイク』!」


 そして剣を大きく振り上げ、恐らくスキルであろう大技を繰り出すツンツン。

 だが、残念だが。


「き、効いてねぇ!?」


 俺はうどんである。

 剣で切りつけられようと、切り込みが入るだけである。

 だが一発は一発。

 素早くうどんでビンタのように頬を叩き、ツンツンを無力化するのであった。



「ちぃ!」

「……」

「この! 放せ!」

「ハァ……ハァ……」


 うどんで拘束した四人を並べ(一名ほど反応がおかしいが)、俺はこれからの事を改めて考える。

 もしこのまま逃げても、おそらく彼らは誰かに助けられるだろう。

 だがその場合、俺の危険性だけ伝えられ本格的な討伐があるかも知れない。

 そうなれば、今回のように上手くは行かないだろう。

 せめて意思疎通さえできれば……。


 そうだ。


『落ち着け、俺は敵じゃない』

「! こいつの体に、言葉が!」


 体をある程度動かせるならば、盛り上げさせて言葉を表示すればいい。

 幸いにも日本語は通じるようで、三名全員(一名は無視)とても驚いている。

 その中で、サラサラが疑問をぶつけて来る。


「……言葉が分かるのか?」

『ああ』

「知能があるのに何故攻撃をした?」

『そうしなければ、やられていたからだ』

「……」

『もし攻撃しないと確約できるのであれば、拘束を解いてもいい』

「本当だな」

「お、おい! 信じるのかよ!」


 サラサラに対しツンツンが怒鳴るが、ツインテールが割って入る。


「アンタは黙ってて! ややこしくなるでしょ!」

「なんだと!」

「ハァ!……ハァ!……」

「三人共! 黙ってくれ!」


 ……何だか僧侶だけは早めに解放した方が良い気がしてきた。

 そんな俺の気持ちを知る訳もなく、サラサラは条件を一つ出して来る。


「こっちの質問に答えてくれ、代わりにアンタの質問にも答える」

『いいだろう』



 これが小麦の覇王に仕えたという、四人の忠臣と忠義のオオカミ。

 その出会いであった。

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