5、アウグスティヌスと修道院

 古代ローマ世界と西欧中世世界を繋ぐ存在で、カトリック神学の基礎を作ったとされるアウグスティヌス(cv暫定杉●智●)も、修道院に深い興味を示していました。


 さて、先ほどからちょこちょこ顔をみせているアウグスティヌスですが、どういう人物なのでしょうか。前半生がすごく面白いのでメモしていきます。


 現在のアルジェリアあたりのタガステという街で生まれたアウグスティヌスは、既婚女性の守護聖人とされる聖モニカと伝統的多神教徒の父(のちにカトリックに改宗します)の間に生まれます。ここから、キリスト教と伝統的多神教双方を詳細に理解し得る生い立ちだったと思われます。

 今でいう地方議員(?)のようなものだった父は、長男のアウグスティヌスにものすごくハイレベルな教育を施そうと金を費やし、アフリカ地域ではトップクラスの都市だったカルタゴへと息子を送ります。で、カルタゴに赴いて遊びまくり()、修辞学の勉強をし、遊びまくり()、修辞学の勉強をし、知的エリートとして活動を開始します。さらに、マニ教にも傾倒した模様。マニ教はキリスト教よりはるかに厳格な宗教でしたが(肉食っちゃいけないとか)、教義の内容が知的エリート向けの難解なものだったようです。


 そんななか、彼は名前も伝わっていない一人の女性と内縁の関係を結び、子供を儲けます。古代ローマではそれなりによくあることだったようです。特に男性と女性の間に身分が隔たり過ぎたり、家父長制の鬼のようなローマ世界で、親の決めた相手ではなかった場合には。

 興味深いことに、彼は、子を成すことを目的にする婚姻という契約と、情熱的結合(恋愛)の間には大きな隔たりがある、と結婚と恋愛を全く別種のものとして記しています。恋愛から結婚に至るのが幸福とされる現代日本の我々の価値観と、親や周囲の決めた結婚ばかりだったローマの世界観の違いを垣間見る記述です。となると、初代皇帝のアウグストゥスは旦那の子供を妊娠中の女性・リウィアに一目惚れして略奪婚()したので、恋愛結婚に近い特殊なケースなんじゃないでしょうか。ただ、この際もリウィアの花嫁道具一式をリウィアの元旦那さんが親のように整えてアウグストゥスに送り出しているそうで、やっぱりローマの世界観は面白いですね!

 そんなわけで、無事(内縁とは言え)妻と子供を持ち、修辞学教師として働き、マニ教徒として活動していたアウグスティヌスですが、マニ教をやめ、出世しようと試みます。

 当時、帝都の一つ(当時のローマには様々な場所に帝都がありました)だったミラノへやってきた彼は、内縁の妻と息子をアフリカから呼び寄せたにもかかわらず、良い家の娘と結婚し、上層部とコネを作ろうと考えたのです。

 ですが、母のモニカが用意してきたその娘との婚姻の際、邪魔になるからということで、周囲は内縁の妻とアウグスティヌスを別れさせてしまいます(ここら辺はなかなか複雑で、『告白』によればアウグスティヌス自身も出世欲があり、結婚は望んでおり、けれども恋人との関係は続けたいという現代人から見るとアンビバレンスな状態になっています。でも、ここをじっくり読めば読むほど『告白』の回心シーンの伏線が現代の我々にも納得がいく感じで回収されるのです)。


「とやかくするあいだに、私の罪は増し加えられてゆきました。そしてこれまで閨をともにしてきたそのひとは、婚姻の妨げとしてかたわらからひきはなされたので、彼女にしっかり結びついていた私の心はひきさかれ、傷つけられ、だらだらと血を流しました。(アウグスティヌス、山田晶訳『告白 Ⅰ』中公文庫、311〜312頁)」


 『告白』の回心シーンと並んでいちばん読み応えがあり面白いところです(は?)!!


 その瞬間から多少遊び好きとは言えどこにでもいる()天才的な知的エリートにして一児の父だったアウグスティヌスは、ここでバキィィィっと折れてしまいます。しかも婚約者や別れた内縁の妻に不誠実なことに、生活が荒れたのか別の女と出来てしまいます。


「はじめの女性(※息子の母)との離別によって生じた傷も決していやされたわけではなく、かえってそれは、はげしい熱と痛みのあと化膿して、熱のほうはいわばいくらかおさまったものの、痛みのほうはまえよりもいっそう絶望的なものになってゆきました。(アウグスティヌス、山田晶訳『告白 Ⅰ』中公文庫、311〜312頁)」


 『告白』の回心シーンと並んでいちばん読み応えがあり面白いところです(は?)!!

 その痛みが、アウグスティヌスをどん底まで追いつめ、劇的な回心へとつながります。


 そんなアウグスティヌスですが、俗世にいた頃から頻繁に友達と修道生活に参加し、あのアントニオスの話を聞いて回心の第一歩を踏み出しています。で、司祭→司教となったヒッポの町で、修道院を二個ほど建てます。

 彼も修道院の規則を作りました。アウグスティヌスの修道院規則は、四大修道院規則の一つとされています。

 とはいえ、カエサレアのバシレイオスの規則とは違って、ゆるいのが特徴。


 こんな感じで。


 Q:どんな感じで修道生活をおくればいいですか?

 アウグスティヌス:仲良く強調して生活してくださいね! 私有財産は持たず、食事や衣服は配布するという形にします。

 Q:1日のスケジュールは?

 アウグスティヌス:定められた時間に祈りを捧げてください。内容は何でも構いません。時刻も皆さんで決めてくださいね〜

 Q:飲食については……

 アウグスティヌス:食事や飲み物の節制は大事ですよね。お肉は控えましょう。でも、病人はその限りではありません。滋養が必要ですからね!

 Q:ええっと……

 アウグスティヌス:あと、皆さん、役割分担しましょう! それぞれ係を決めて、図書や食事や衣服などを管理しましょうね。

 Q:外出は……

 アウグスティヌス:まあ制限はありますが外出は禁じません。公衆浴場に行ってもいいですよ〜!


 正直、ちょっときついダイエット生活と同じ感じ(やめなさい)

 カエサレアのバシレイオスの規則と比べるとゆるゆるなことがわかります。前半生が前半生だからね!(おい


 また、アウグスティヌスは修道士のうち、福音書の記述を元に働かない修道士がいるのを憂慮しています。修道士は世俗(富や名誉など)のためではなく、共同体(仲間とのより良い生活)のために労働するべきであると考えていたようです。

 この修道士は働きながら祈るべきという考え方は、今後の修道院の考え方の規範になっていきます。


 ……というわけで杉崎泰一郎先生の『修道院の歴史:聖アントニオスからイエズス会まで』

 の読書はここまで。続きは本書にて! 修道院の歴史が事細かに書いてあります。



 あと、山田晶先生のアウグスティヌス『告白』の翻訳は本当に文章が美しいのでオススメです!

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後期古代ローマの本を読むよ〜! こはる @coharu-0423

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