終了報告 そのご

 わたしオレは葛巻さんの依頼について報告書をまとめて提出したので、今日はもう業務がない。

 そのままオフィスいても良かったけど、課長にまた余計な仕事を割り振られても面白くない。

 その為、わたしは休憩室へ逃げ込むことにした。

 別にやましい事がある訳でもないが、一応業務時間中でもあるので、自分なりに自重した感じだった。

 けど休憩室にはすでに先客がいた。

 まあ、課長なんだけど。

「あら、報告書上がっていたからそろそろ来ると思っていたわ。」

 黒いサングラスをしたままでわたしを見る。

 その顔には笑みが浮かんでいる。 自分にそっくりな人の顔見て一体何が楽しいのか。

「仕事が片付いたから言うけど、何よ今回の偽名。 両方ともかつてのクライアント名前をそのまま使っているじゃない!」

 そうなのだ、今回使用した「綺世賢人」と「九堂勇気」はどちらも以前のクライアント名前をそのまま使用している。

 しかも両方ともそれなりに知名度がある男性なのだから、どういう神経をしているのやら。

 わたしはため息を付きながら椅子に座る。

 偽名の件に文句はいったけど、多分答えが返ってこないことも分かっている。

 付き合いもそこそこ長くなってきたし、その辺りは察している。

 まあ、育ちは違うとは言えほぼ同一人物同士だから。

 そんな事を考えていると課長が何か思い出したような顔をした後、こちらへ寄ってきた。

 思わず後ずさるわたしに対して気遣いする風も見せずに話しを振ってくる。

「そう言えばアロールート製薬が告発されたそうよ。生命倫理に関する法律違反で。」

 なんとタイムリーなことも有るもんだ。

 わたしは何とは無しに聞き流していたが課長はそのまま話しを続ける。

「まあ、アロールート社の過去の実験が掘り返された感じね。」

「なんかすごい今更感ない?」

 思わずわたしはツッコミを入れる。

「多分、あの辞表が効果を発揮したのかも。」

 予測を口にする課長に、わたしは疑問が並ぶ。

「まったく意味がわからない……。」

「ほら辞表にあったじゃない。『聞き入れられない場合は法的手段に訴える所存』って。」

「それは知っている。 って言うかわたしが調べたやつ。 そもそも誰も葛巻さんの身辺を調べてないじゃない。」

「あら、あの辞表に調とは一言も書かれていないわよ?」

「はいぃぃぃ!?」

 思わずわたしは素っ頓狂な声を上げる。

 「今後も 身辺調査はなさないで下さい。」とはあったけど……。

 つまりこれは葛巻さんではなく、クレンシアさんのことだったとも解釈できる。

「でも直近でアロールートが動いた形跡も無かったわよ?」

「こっちもね、アロールートが身辺調査を行った場合に限った話じゃなかったのかも。」

 たしかにしワザとか。

「わたしが思うにクレンシアさんも、結構食わせ者だったのかもしれないわね。 恐らくクレンシアさん親子について誰かが身辺調査を行った時点で告発が行われるようになっていんだと思うわ。」

「うわー……、えげつない。」

 本音が口から出てしまった。

「うちもまさに社名回天堂のとおり、時制を一変させる大仕事だった訳よ。」

「いや、回天って衰退したものが盛り返すって意味よ。『盛者必衰の理』とは意味が違うから。」

 わたしは思わず課長にツッコミを入れていた。

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禁忌のその先に サイノメ @DICE-ROLL

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