【KAC20246】 とりあえずの鳥

小烏 つむぎ

【KAC20246】 とりあえずの鳥

「とりあえずさ。そこの滝!滝の後ろ側!」

「とりあえず、右! ヤツの右から攻めよう!」

「えー?? とりあえず皆でヤルって言ったじゃん! なんで置いて行くかなぁ」

「あー。とりあえず、ごめん!落ちちゃった」


 ◇ ◇ ◇


 マロンは下僕みどりの大声を右の耳から左耳へと素通りさせながら、しっぽで不愉快そうにバタンと箱の壁を叩いた。


 下僕みどりが頑張って作った箱は、ゆっくりするには居心地が良い。

 

 今回は薄いがめん相手に大きな声で「とりあえず…」と叫びだした下僕みどりの声がうるさくて、この箱に逃げ込んだのだ。


 あれはオンラインゲームというものらしい。下僕みどりは薄い箱の中で生き物を狩っているようだとマロンは考えていた。今はトサカの生えた火を吹く鳥と戦っている。仲間は三人いるようだが、勝敗いつもギリギリで厳しそうだ。


 マロンはいつ助力の頼みが来ても出ていけるように、この部屋に居続けている。とはいえ下僕みどりの大きな声は閉口なので、この居心地のいい箱の中で耳をきゅっと伏せているというわけだ。


 ◇ ◇ ◇


 美鳥はパソコンの画面を閉じてヘッドホンを外し、大きく伸びをした。小一時間ほど叫んでいたせいか喉が痛い。


 猫棚と家族が呼ぶ本棚をふと見ると、美鳥が苦労して作った箱からマロンの後ろ足としっぽが出てている。突然ダラリと垂れていた足がピクピクと震えた。


「スマホ! スマホ!」


 美鳥は先が鍵型に折れているマロンの長いしっぽに重なる後ろ足を、撮影し始めた。


 「こっちが可愛いかな? いや、そっち? とりあえずコレでいいか」


 美鳥は一番可愛く撮影出来たと思う動画をゲーム仲間に一斉に送信した。


 ◇ ◇ ◇


 箱の中でうとうととするマロンのアタマの中では、オシャレな鳥かごが一列に並んでいた。

「とりあえず」「とりあえず」「とりあえず」「とりあ……」「とり……」


 「とりあえず」と下僕みどりが言う度に鳥かごのなかにポンっと、トサカのある鳥が現れる。鳥は薄い黄色の翼を広げて、「トリ、トリ、トリ」と鳴いては鳥かごのなかをパタパタと飛び回った。


 鳥かごの中の止まり木に鳥がいっぱいに止まると、ゴンっと新しい鳥かごが現れる。先ほどからその繰り返しで、マロンは眉間にシワを寄せた。思わずそこから逃げ出そうとするのだが、後ろ足がピクピクと痙攣するばかりであった。


 

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