第20話 常識が通用しない相手はどうやって対処すればいいのか。答えは自分も非常識になる。

 現代ドラマ週間6位ありがとうございます。突然の事でなにがなにやら。

 たくさんの方の目に届いたようで嬉しい限りです。


 現在2作品連載しているので再開はどちらかが終わってからになると思います。

 その時、また読みに来てくれたら幸いです。

 本当にありがとうございます。


━━━━━━━━━━━━━━━


「あー金曜の5時間目に教育委員会がこのクラスの授業風景を視察に来るから予習復習整理整頓身支度しておくように。

 くれぐれも印象が悪くなるようなことはしないように。以上」


 教育委員会がこのクラスに来るのか。気合いを入れないとな。まずは前回のテスト範囲の終わりから目を通さないと。

 授業の録音を聞き流して寝るか。


「起立。気をつけ〜礼っ」

「「「「「「「「さよなら」」」」」」」」


 忙しい日が続きそうだ。




 ついにやってきた金曜日。日課の人間観察は流れ作業程度にしか出来なかった。

 それもこれも教育委員会のせいだ。


 一学期にやった初めての視察は大変だった。まだ高校に慣れる前、クラスの仲は決して良いとは言えなかった。


 何しろ初めてだったから、その恐ろしさを知らなかった。知っていればクラス一丸となって協力できた。

 思えばあれが最初のクラス行事だった気がするし、クラスの団結力が上がった。




 欠席者は多数。しかし全員が公欠扱い。


 美術館で展示会を開いた者、自社ブランドのファッションショーに出向く者、親の外交に同伴する者、全国大会の遠征に行った者、公演会を開催した者、握手会を開催した者と理由は様々。


 共通するのは勉強がちょっと苦手ということ。つまりは教育委員会の人たちに会いたくないから学校に行けない口実を無理やり作ったのだ。


 しかし、喜ぶ人は多い。

 ファンや運営者からたくさん感謝の言葉を送られることになるだろう。

 これを理由に学校や会社を休む人が大勢いたらしく、SNSを少し見れば多くの人が反応してるのがわかる。



(ピーンポーンパーンポーン)


『校長先生ですよ。

 みなさん本日は偽りの自分を被ってください。社会に出ればそんなことは日常茶飯事です。今のうちから慣れておきましょう。

 きっと理不尽な目に遭うでしょう。しかし、成長の機会です。大人の心で受け流しましょう。

 乗り越えた暁には本日の放課後、担任の先生からプレゼントがあるので期待してください。

 以上で終わります。

 校長先生でした。』


 教育委員会が来るだけでなんとも大袈裟な。とはならない。それくらいのことが起きるから。

 他の学年、クラスでも公欠者が多くいるだろう。

 突然の知らせでも、たった数日のうちに、公欠で学校を休む理由を作れるのがこの学校の生徒の優秀さを物語ってる。


 既に社会で通用する者が大勢いる。




 5時間目の授業が始まった。今日のシマちゃんはいつにも増して体からカラフルな花を演出させてる。

 今日はアーティスト気質の人たち(表現者)がいないから比較的静かな授業が続いた。



「授業を始める」


 よりによって世界史。

 この先生の授業はとにかく生徒に答えさせることが多くて単純に嫌われてる。



(ガラガラガラ……)


「ざます。ざますでざます。

 おほほほほ。あら、ごめんあそばせ。授業を止めてしまったざます。気にせずどうぞ続けて。

 本日は後ろからしかと覗かせていただくざます。

 この目と耳と鼻と口と風で。どうぞよしなに」



 来た。

 お面かと見紛うほどに分厚い化粧に、喉焼けするほどに色合いがくどい和服。

 そして綿がついた扇子で下品な口元を隠してる。


 その後ろには平凡に黒スーツを着た仕事が出来そうな女の人が3人。

 付き人なのか教育委員会の人なのか誰も知らない。




 授業は終盤を迎えた。



「もし、どうしてこの殿方はこのような考え方をしたざます?」

「はい。結論から言いますと━━━━━━で、━━━という考えを持っていたからと伝えられています」

「そう。勉強になったざます。ところで、いつになったら目を合わせてくれるざます?」

「っ!?」


 椅子に座ってる生徒の顔を覗き込むように、ギリギリまで顔を近づける。

 あまりの目力に吸い込まれそうになるほどだ。アレをやられると1週間夢に見る。そのトラウマ的顔面に、冷静を保っていた生徒が泡を吹く。



 これがあるのだ。既に先生は空気。教室の隅で教科書だけを持って自習してる。

 早々に授業をジャックされ、居場所を失った可哀想な先生。誰も同情しないが。


 そして始まった質問責めという名の尋問。生徒一人一人と向かい合って、かけれる圧を全てかけていく。


 終盤までに8人が保健室送りにされている。



 5時間目も残り3分、尋問はついに最後の1人を迎えた。


 生徒の名はピエロ。

 極度の恥ずかしがり屋で普段は仮面をつけて生活してる。会話や表現には服に仕込んだ楽器を鳴らして伝える。


 恥ずかしがり屋ということで学校を休むことも出来ず今日を迎えてしまったらしい。

 仮面を外して望んだ5時間目。


 既に気絶している。



「ざます。聞こえているでざます?」


 まずいっ!!気絶してる事がバレた!

 これまでの生徒は保健室送りで済まされてたけどそれで終わるか怪しい。

 噂では気に入られた(意味深)生徒は1週間の合宿を行うのだとか。

 ピエロがそんなところに連れて行かれたらまず終わりだ。学校を辞めるだけで済めばいいが、最悪は社会から逃げ出すことも大いにありうる。


 なんとか、なんとか凌いでくれ!目を覚ませ!


(ビクンっ!)


 ピエロの体が大きくはねた。


「ざますっ!?」


 驚くざますをよそにピエロは覚醒した。比喩ではなく実際に覚醒した。


 鼻先まで完全に隠してた前髪は立ち上がる。

 あらわになった目は白目だが、ざますを完全に捉えていた。


「さぁ、質問をどうぞ」


 あまりの堂々たるその姿勢にクラスメイトも唾を飲む。

 初めて聞いたピエロの声はどこか聞いたことのある声だった。

 覚醒に驚いて視界の端が微かに光ったのを見逃すところだった。


 あの人が動いたならもう大丈夫。


「ざ、ざますでざます。おほほほほ。

 では、どうして白目なのですか、口が動いていないのに声がき━━」


(キーンコーンカーンコーン)


「そ、それでは授業を終わりますっ!」


 チャイムと同時に食い気味に先生が授業を終わらせた。ざますの声はチャイムにかき消された。


 はずだった。



「質問に答えましょう」


 野田君!!


 未だ意識の戻らないピエロ。止まらない野田君。うろたえるざます。


「あなたと心で話し、通じ合いたいと思ったからです。目ではなく、口ではなく、心で会話をしたいと思い実践いたしました」


 何言ってんの野田君!普通の人はそんなことできるわけがないんですけど!!


「ざぁます!!あなたを気に入りました!

 私を前にその姿勢、屋敷に招待します。

 来てくれるざますね」

「あなたの誘いならどこまでも」


 野田君なにしてんの!いい顔してる。やりきった顔しちゃってるよ。


 あ、髪が戻った。



 その後、担任から10万円もらった。これで精神疲労を癒してこいとのこと。

 1週間、ピエロは学校を欠席し迎えた月曜日、教室で発狂した。


 何があったかは誰も知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クラスメイトの1人が異世界から帰ってきたっぽい。(確信) 骨皮 ガーリック @honegari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ