陽太くんは耳を赤くしながら、数学の問題を書き写し、解きはじめた。


「だから勉強も頑張らなきゃ……頑張ろうって思えるんです」


 真剣なまなざしでノートに向かう姿に、胸が熱くなっていた。

 大事に思ってくれているのを感じる。もしかしたら、私が陽太くんを思うよりも強く思ってくれてるのかもしれない。なんて、うぬぼれだろうか。


 中学生と高校生の恋愛で、将来を約束するようなものが実現するのかわからない。不安はたくさんある。

 ちゃんとした約束ではないけど、陽太くんはそうなるように変わろうとしている。


「ありがとう……」


 私の声は、真剣に勉強に取り組んでいる陽太くんに聞こえていない。

 この気持ちに応えなきゃいけない、私も。私ができることで……。



 ✳  ✳  ✳



 ほぼ毎日のように、夕方になると陽太くんはうちに来ていた。

 ご飯を一緒に食べて、夜中まで勉強する。私は高校の宿題や予習復習をして、陽太くんはそれぞれの科目の一年のときの勉強をする。

 陽太くんがわからないところがあると、私が教える。


 指が触れただけで、陽太くんはあわてて席を立って飲み物を飲み干す。

 私の髪の毛が振り向きざまに陽太くんの頬に触れたら、一歩後ろに飛び退く。

 手を繋いだり、イチャイチャしたりしてみたい。少しだけでもいいから。そんな私の気持ちには気づいていないみたい。

 

 それから眠くなる前に、シャワーを浴びて寝る。もちろん別々の部屋で。

 私は自室で、陽太くんはリビング。

 梅雨入りするまで、そんな感じ。


 早朝、お母さんが帰ってきて早い朝ご飯を一緒に食べる。それから陽太くんは家に帰り、学校へ行くようだった。


「あの子、ほんとにあなたのことを好きなのね。真剣さは伝わってる。ピュア過ぎて眩しいくらいだし。でも、あなたの勉強は大丈夫なの? 中間テストがよくなければ、うちに来るのは少し控えてもらわなきゃ。そのときは、陽太くんのお父さんとも話をさせてもらうわよ」


 中間テストの結果。

 陽太くんは、一年次の復習をみっちりしたあと、二年の一学期中間の範囲をしっかり勉強した甲斐があって、順位は中の上、それぞれの科目は、平均点より上ばかり。

 私は、あまり良い結果ではなかった。陽太くんに教えていた時間はそれほど長くなかったつもりだったのに。

 

 お母さんとの約束通り、陽太くんのお父さんも交えて、話し合いをすることになった。

 

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甘い夢をみていた ――続・ささくれに絆創膏―― 香坂 壱霧 @kohsaka_ichimu

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