この物語は、心のささくれを見せることの勇気と、それを優しく包み込む慈しみの物語である。

登場人物たちは、自らの傷をさらけ出し、互いに絆創膏となる。

この行為は、深い共感と理解を促し、読者にも内省の機会を提供する。物語の流れは、暗闇の中での小さな光のように、希望を示唆している。

心の痛みを抱える全ての人にとって、この小説は、傷を隠すのではなく、それを受け入れ、癒やし、そして強くなるための道を示してくれる。

作者は、細やかな心理描写を通じて、人間の脆さと強さの両面を見事に描き出しており、それがこの作品の真実性を高めている。

読み終えた時、私たちは自分自身の心のささくれにも、優しく絆創膏を貼ることができるようになるだろう。

痛みに耐えるために、痛みを創って誤魔化すのは、なぜだろう。
そんなことをしても、傷はじくじく傷んで、増えていくだけなのに。

強くなったんだと、耐えられる証が欲しいのだろうか。
それとも、その痛みから逃げたくて、別の痛みに浸るのか。

それでも、誰かが手当をしてくれたら、もう剥かなくてよくなるだろうか。

切なくて、痛くて、それでも、だからこそ、沁みる温もりがある。

世間は冷たい目を向けたとしても、この温もりは本物だから。

ストイックでプラトニック。

焦れったくも潔い。

とても良かったです。

作者様の長編『この距離のはかりかた』からのスピンオフですが、
長編を読んでいなくても分かるように書かれています。

家庭の問題で心に傷を負った少年と少女が、
お互いに距離を測りながらそっと近づいてゆく描写に切なくなります。

恋の始まりを描いた短編ですが、
それと同時に思春期を生きる子供たちの心の成長を描いた作品でもあります。

こちらが気に入ったらぜひ『この距離のはかりかた』も読んでみてください！