新説・雪女
鋏池 穏美
東北地方の寂れた山村に、
だが行けども行けども秘湯は見つからず、そのうち
そうして吹雪の中、途方に暮れる二人の目に留まった山小屋。ひどく古びてはいるが、寒さを凌ぐには十分であろうと、この山小屋で吹雪が止むまで過ごさせて貰うことにした。
山小屋の中に入ってみれば、埃をかぶった布団が打ち捨てられている。少しかび臭い布団。背に腹はかえられぬと、布団に
それからしばらく時間が経ち、いかんいかんと、
白装束に
「……よくよく見れば、あなたは私の好みの顔をしている。殺すのは忍びない。運がよかったですね」
雪女はそこまで言うと再び悪意のある笑みを見せ、 「里に降りても、私の事は
「分かった! 君のことは絶対に
「えっ?」と、驚いた顔で振り向く雪女。
「こんな美しい女性から『離さないで』なんて言われたことがない! どうやら君も一目惚れみたいだけど、俺も一目惚れだ! 結婚しよう!」
言いながら
「や、やめてください! 離して!」
「いいや離さない! 君が『離さないで』と言ったんじゃないか!」
「ち、違うの! 私は『話さないで』って言ったの! 離さないならあなたも凍らせるわよ!」
「俺を凍らせる? 出来るものならやってみろ!」
「俺は言ったことを曲げたりしない! 熱い気持ちがある限り! 自分が信じた道を突き進む!」
290円ちょうどお預かりします──
と、どこからともなく謎の声が聞こえ、
そのまま
「気に食わないことがあるなら殴って解決! 多様性戦隊
あまりの展開に困惑する雪女。だが──
熱い
「俺を凍らせるなんて無理だぜ? ジャ〇プの主人公は凍らないんだ!」
「でも……私はあなたの友人を殺してしま──」
雪女が言い終える前に、
「ぷはっ! 君にそんな悲しい顔は似合わない! それに
そう言って
「ないっ!!」
と、むくりと起き上がる。何が起きたのか分からず困惑する雪女。確かに自分の輝く息で凍らせたはず──
「
「それはどういう……意味……?」
「あいつも多様性戦隊の一員、社畜ブラックの
そう言って親指を立て、笑った
雪女は心を奪われた。
「そうだ! 君の名前は?」
「私は……
「俺は
「レガシーネーム? ごめんなさい。ちょっと人里のことには疎くて……」
「君の言う人里で、キラキラネーム、しわしわネームの次に流行ったのがレガシーネームだよ。昔話に出てくるような名前のことだね。俺と
「ああ、名前を変えてくれるお
そう言って雪女──
「絶対に
「ああ!」
***
十数年後──
「……とまあ、これが俺と母さんの出会いだ」
「ふーん。それでお母さんは多様性戦隊の
「お
「ん? 『変えれなくなる』と『帰れなくなる』を掛けてるの? ……くだらな過ぎて反吐が出そう。お願いだから今の話、僕の前で二度と
手に入れたこの幸せを、絶対に
──新説・雪女(了)
新説・雪女 鋏池 穏美 @tukaike
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