「秘密だよ?」【KAC20245】
にわ冬莉
見た
「秘密だよ?」
含みのある口調でそんな風に言われたから、私は少し、勘違いをしてしまったのだと思う。もしかしたら彼は私のことを……なんて。
「では、なにも怪しいものは見ていない、ということだね?」
聞き込みに来ていた刑事にそう言われ、私は黙って頷いた。あの日の夜、ここで何が起きたかなんて私は知らない。知らないと言い張る。
「困ったなぁ、目撃証言がゼロとは」
刑事は頭を掻きながら私から離れていく。
これでいい。
私は約束を守った。
だって、秘密だもの。私と、あの人二人だけの……。
それから何度か彼と顔を合わせることはあったけど、なにも言われなかった。私が約束を破っていないか心配している素振りも見せない。信用してくれているのかな。
刑事は、しばらくしてその場所から姿を消した。どうやら事件は解決したようだ。
そんなある夜、窓の外からの物音で目が覚める。私は心臓の高鳴りを覚えた。あの人が来ているんだと、何故かわかったからだ。そっとカーテンを開けると、アパートの下にその姿を見つける。
私が約束を破ったと思われた?
事件解決は私が何かをしたからではないのだけど、もしかしたら疑って……。
『会話を交わしてはいけません』
親にはそう言い聞かされていたけど、私はいても立ってもいられずに、アパートの階段を駆け下りる。
「私、何もしてません! 約束はちゃんと守ってます!」
そう、言ってしまった。
彼は私を見て、にたりと笑う。
「俺が車を事故らせたってこと、ちゃんと秘密にしててくれたんだね」
「勿論です! だから、私を呪わないで!」
昔。
ずっと昔にその場所で死んだ彼は、自分をひき殺した相手を探しているようだった。いつもあの場所で、じっとりと車を見ていたのだ。そして似た車を見かけると、事故を起こす……。
「君を呪うつもりなんてないよ。だけど……どうして話しちゃったの?」
気付けば、今までは見えなかったこの世のものではない者たちが、私を取り囲んでいた。
「秘密だよ?」【KAC20245】 にわ冬莉 @niwa-touri
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