第54話:地上へ
「違うの。昨日、ティアに特訓に付き合ってもらって分かったわ。私は、生まれつきみんなみたいに強くはなれないようになってる。だから、絶対に足を引っ張っちゃうの」
シーシャは、少し涙ぐんでいるように見えた。
確か、この件はダンジョンに入る前にティアが言っていたことか。
シーシャは魔力コントロールが先天的に苦手らしく、精度が上がらないらしい。確かに実際の冒険では威力と同時に精度も重要になる。
精度が悪ければ魔物を倒せないどころか味方に誤爆してしまったり、下手をすればダンジョンを破壊して味方を生き埋めにしてしまう可能性もある。
正直、魔法師としてはかなり致命的な問題だ。
「そういうことだから……ごめんなさい」
そう言って、シーシャはリヒトの元を離れてオスカ先生のところへ。
「先生、もう寮に戻って良いかしら」
「んん……まあ、最後のパーティが終わるまであと一時間はかかるか……。分かった、チームリヒトは戻って良し。戻るとき足元には気をつけろよ」
「ええ。ありがとうございます」
オスカ先生に礼を言った後、俺たちのもとには戻らずシーシャは一人で出口を目指したのだった。
「シーシャ……どうしたのでしょうか」
ユリアが心配そうに呟く。
事情を知らなかったユリアとリヒトにとっては、シーシャの行動は不可思議に映ってしまったのかもしれない。
「ティア、ここど出たら、二人に事情を話しておいてくれるか?」
「え、ええ。エレンは?」
「俺はシーシャと話をしてくる。さっき、対処法はあるって言ったろ?」
今日のオリエンテーションに集中できるよう、敢えてダンジョンに入る前のタイミングでは伝えなかったが、俺にはシーシャにしておきたかった提案が一つある。
完璧な解決方法ではないかもしれないが、シーシャ次第では自信と熱意を取り戻すきっかけを与えられるかもしれない。
「……わかりましたわ。シーシャのことは任せましたの」
「ああ」
こうして、俺たちは他のクラスメイトたちよりも一足早く地下を出たのだった。
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英雄の隠し子 〜七傑の至宝は、平民に厳しい貴族学院で無自覚に無双する〜 蒼月浩二 @aotsukikoji
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