終の章
目を覚ますと、思いもよらない救世主が僕を見下ろしていた
(1/4)
目を覚ますと、思いもよらない救世主が僕を見下ろしていた。
「よっ。夢の中でヒーローになれたかね?」
仕事で家を留守にしているはずの祖母がそこにいた。数々の心霊現象を解決してきた実力者であり、真田きょうだいの元祖である祖母が戻ってきた。
心強い味方の帰還は非常に嬉しいが、あまりにもタイミングが良いので幻覚ではないかと身構えてしまう。
そういえば夢の中で馴染みのあるお経を聞いた。聞き覚えがあると薄々感じだけど、ようやく誰が唱えていたのか発覚した。
「てっちゃんから電話がかかってきたんだよ。ほら、あの子って電子機器に強いから」
てっちゃん……ああ、寺尾だからてっちゃんか。
あの人は電話やカメラなどの機械で意思疎通を図る才能がある。肉体を失っても使える便利な才能だ。
優しい寺尾は、呪いを分析している僕らを心配して祖母に連絡してくれたのだ。
「もう大丈夫。終わったから」
祖母の宣言を聞いたとたん、脳みそにまとわりついたモヤモヤが霧散した。今さら最適な解決策を見つけた。
そうだ。自分達でなんとかしようと足掻くのではなく、解決してくれる人に相談するべきだった。
どうして確実に亜紀さんを助けてくれる人を探さなかったのだろう。
石の念? エンタメの力が働いた?
とにかく、祖母が戻って来てくれてよかった。
(2/4)
「立花! 大丈夫か!」
秋吉は目を覚ましたばかりの枝光を抱きしめた。いつの間にか、僕は枝光から離れていた。
森井と清末兄さんはいない。
あとのことは祖母がなんとかしてくれると信じているからとはいえ、ドライな気がする。
「おはよう兄ちゃん。僕は枝光だ。立花の兄ちゃんはあっちな」
「僕は見えないから、立花の容態を教えてほしい」
「『夢の中で怪物をたおしたから、ドヤ顔でこっちを見ている』」
適当なこと言うなよ!
「さすが立花だ」
秋吉! あんたは僕を過信してる!
枝光があからさまに嘘をついたのに、気づいてなさそうだ。
夢で活躍したのは枝光だ。
僕は亜紀さんになにもできなかった。ごめんなさい。
「下手なことして深手を負うより、余計なことをしなかったばかりに無事でいてくれた方が僕としてはありがたい」
「枝光? それは誰のセリフ?」
「立花の兄ちゃんだよ。ドヤ顔のまま言っている」
言ってないよ! 枝光が僕を慰めてくれたんだろ!
「あー。想像できる。立花なら言いそう」
できるの? 秋吉から見た僕ってどんなキャラなんだろう。
「亜紀ちゃんがいなくなっている。さすが祖母様だ。颯爽と解決してくださった」
「枝光さんたちが夢の中でいろいろと頑張ってくれたんだろう。お疲れさん。この石はこっちで預かるよ」
祖母が屈託のない笑みを浮かべ、立方体の石を握りしめる。
絶対になんとかしてかれる人の手に石が渡り、一連の騒動は解決した。
しかし秋吉の表情は沈んでいる。
明日以降の学校生活が地獄になるのではないかと心配なのだ。
(3/4)
ところが物事はいい方向へ進んだ。
「那珂川さんは急遽引っ越しすることになった」
翌朝のホームルームでその報告を聞いた時、秋吉は胸を撫で下ろした。
心の底から憎まれているクラスメイトとどう距離をとるべきか悩んでいたので、この展開は非常に嬉しい。
続いて瑞橋先生が養生のためしばらく学校を休むと連絡を聞いた瞬間、小さくガッツポーズをとった。
奇跡が立て続けに起こった。
平凡な学校生活を妨げる存在がいなくなり、心から安堵した。
ようやく中平秋吉を取り巻く問題が解決し、彼は静かな日々を過ごしている。
誰にも睨まれない。誰にも話しかけられない。静かで平和な日々だった。
唯一の話し相手だった和輝は、駐車場で那珂川さんを任せたあの日以来、一度も顔を見せに来ない。
騒動の原因が自分自身なだけに負い目を感じている?
和輝はなにも悪くないのに。
(4/4)
呪いの箱騒動からちょうど一週間が経った昼休み、和輝を探しに秋吉は席をたった。
せめて生存しているか確認したかったから。
知らない人に声をかける勇気はないので、そっと教室の中を一瞥するだけにとどめた。
みんなが制服を着ているなか、一人だけジャージを着ていれば、一目でわかる。しかし和輝は見つからなかった。
そういえば、和輝がいつも着ているジャージは私服だ。
制服を着るように義務付けられている学校なのに、よく注意されなかったよな。
……なにか事情があるのならかまわない。
教師が私服を認めているのなら、文句は言わない。
でも、もし最初からこの学校の生徒じゃないのなら?
たとえば催眠術とかで学校に潜りこんだとしたら……?
いや、催眠術は那珂川さんだろ。和輝ではない。それにわざわざ学校に侵入する理由がわからない。
いくら考えたところで雑談しかしなかった和輝が学校に侵入した目的なんて想像できるはずもない。
気さくで都市伝説が好きで森井のことが気になっていて。それくらいしか知らない。
「たぶん、ずっと休んでいるだけだろう」
理不尽なことが続いたせいで、和輝にまで疑いの目を向けている。それはよくない。なにもされていないのに、不信感を抱くのは失礼だ。
職員室に行って在籍しているか確かめる術もあったが、余計な詮索はせずに教室へ戻った。自分が危険にさらされていないのなら、和輝が何者でもいい。そんな淡白な性格だから、和輝とそれなりに仲良くなれたのだろう。
席につき、図書館で借りた本を読む。誰とも喋らなくなった状況で、本は暇つぶしの道具としてちょうどいい。
たとえ親しい人が居なくなっても、日常は続いていく。それだけだ。
永若オソカ @na0ga50waca
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