王「よく来た勇者よ。チミに頼みがある」
R「なんか急にファンタジーな世界観に召喚されたんだけど」
王「この街では、塔の建設を禁止している。身を投じる人を防ぐためだ」
R「ねえ、帰りたいんだけど」
王「だが、飛び降りる人が続出している」
R「もうヤダ。全然話を聞いてくれない」
王「あのさぁ! チミだって話を聞いてくれてないじゃん! それで自分の話だけ通そうだなんて都合良すぎない?」
R「そのセリフ、そっくりそのまま返すよ!」
〜お城のある街の民話〜
この街には穴掘りの才能がある人が現れる
凡人が土を掘っても何も出てこないが
勘のいい人が掘ると何かを引き当てる
その少女は土の中の大切なものを見つける目を持っていた
ある時は埋蔵金を掘り起こし賞賛された
ある時は埋葬された遺骨を掘り起こして非難された
少女は混乱した
どうして少女の行動は同じなのに
みんなの反応は極端に変わるのだろう?
このように穴掘りは
分別がつかない愚弄である
救済処置は塔のてっぺんで王冠を被り──
R「まったく。街の問題を部外者に押し付けないでほしいよ。それなのにさっきの……王様でいいんだよね? 王冠を被っていないから、わからなかったよ」
鼠「この街では悪い伝承のせいで王冠は控えているんだよ」
R「な、なんだ? ネズミ耳の猫のような生き物が喋っている」
鼠「ドーモ。ねずみです。そして解説役です」
R「ねずみなのか。こんにちは」
鼠「栄えの頂点まで登ればあとはくだるのみ。繁栄の反対は衰退。時には思いもよらない出来事で地位から落下して名誉を失ってしまう」
R「それは悔しいね」
鼠「雷が落ちてきて、王冠は落下する。これが最悪の衰退シナリオだ。天災は防ぎようがないね」
R「だから王冠を避けるのか」
鼠「雷が落ちると、辺りは火事になる。周りの人々はたまったものじゃない。だからこの街は塔の建設を禁じている」
R「ん? 飛び降りを防ぐために塔を建てないんじゃなかった?」
鼠「それより今日は花火大会だよ。楽しみなよ」
R「だからみんな着物やジンベイを着ているのか。世界観崩壊してない?」
鼠「だって、西洋でのお祭りの着物になる衣装なんて知らないし」
R「お、始まった」
鼠「ねえ知ってる? この街に花火師職人なんていないんだよ。市民から志願者を集めて、玉を作ってもらっている」
R「どおりでクオリティにムラがあるわけだ。アレ、形崩れてない? でも、なんかいいな。色が良かったのかな?」
鼠「あの子の作る花火は妙な魅力があるよね」
R「作り手の個性がでるね。攻撃的な作品もあれば、控えめでもったいない作品もある」
女「ひっ。私の作品の感想が聞こえた。攻撃的だって言われた。うえーん!」
R「え?」
鼠「たまにいるんだよ。作品と作者が切り離せないせいで、作品の批判に傷つく人」
R「そりゃそうだよ。創作は投影。おのずと心をこめてしまう。酷いことを言ってしまった」
鼠「上ばかり見て歩かないで。人を踏むところだったよ」
R「な、なに? この人、額から血を流してるよね?」
鼠「撃たれたから、血を流しているよ。商品は回収されているけど、ここで王冠を売っていたんだよ」
R「だから撃たれたの? その程度の理由で? だいたい、王族でもないのに庶民が王冠を買うなんて……」
鼠「ところがどっこい、意外にも買われているよ。よって売り手は粛清される」
R「この街では王冠に良くないイメージが付いている。それなのに買う人がいる。おかしな話だ」
鼠「なにもおかしいことはない。特定の人たちにとって、王冠は起死回生のチャンスなんだから」
R「何言っているの? アンラッキーな転落の象徴が王冠なのに」
鼠「ところで、どの花火が好きだった?」
R「形がいびつだったけど色が綺麗な花火」
鼠「その作者に会ってみない?」
R「いやべつに。作品が好きだからって、作者も好きってわけじゃないし」
鼠「そうか。じゃあ代わりにぼくがきみの感想を伝えるね。いったん死んでやり直しても創作だけは続けてねって言うんだ」
R「やっぱり僕もついていく」
鼠「そうこなくっちゃ」
王様は最悪な衰退を怖がり
王冠を被った人を塔にのぼらせて
天災を肩代わりさせていました
転じて、新しい自殺方法として
やり直したい人が
高い場所を塔として王冠を被るのです
A「花火大会はおしまいか。……今日は星空がたくさんあるな。いつも俯いているから、気づかなかった」
R「おーい君。王様でもないのに王冠を被っているの? しかも公園にわざわざヤグラを建てるなんて、これだと自殺と思われても仕方がないよ」
A「私はこれから私を壊すよ」
R「穏やかじゃないね」
A「先のことを考えれば、みんなが平和になる。だって、さんざん迷惑をかけた奴がいなくなるから」
R「君の味方は一人もいなかったの?」
A「敵意や悪意を向けてこない人は、私に無関心な人だったよ」
R「壊すって何? 痛くない? やめときなよ」
A「今だって生きているだけで苦しいよ。苦しいのは私が悪いからだよ」
鼠「それは辛いね」
A「あなたは、すでに焼いた星型のクッキーにハートの型を押しつけたらどうなるか知ってる?」
R「ボロボロになるね」
A「焼く前の生地なら修正できたかもしれない。ある程度成形したものを矯正すると軋むし歪むよ。だから、ボロボロの粉グズにして、正しい型に入れるの。それがクッキーとはかぎないけど」
R「君は集団や社会の枠組みにはまれなかったのか。でも世の中って、ほとんど思い通りに進まないし、すべて自分に合うことなんて滅多にないよ」
A「あなたでもそう思うの?」
R「人は分かり合えないよ。誰だって不満をかかえて、それでも折り合いをつけて生きていくんだよ」
A「こんなの誰でも持っている感情? だったら! どうして! 誰も同情してくれない!」
R「そんな、怒らなくたって……」
A「わかっている。我慢することが偉いって……」
R「いや、そういうことじゃなくて」
A「は⁉︎ 察しが悪い人に『だから』の先を当てさせるのってズルくない? 当然外れるのに、『コイツ、ないな』って反応するのはあんまりだと思う!」
R「ご、ごめんって……」
A「私のことは許してくれないのに私は許さないといけないの?
鼠「世の中との一致率がいちじるしく低すぎてしんどいのに『分かり合えなくて当然』なんてよく言えたよねー」
A「なんでわからないだけで、空気の読めない嫌な奴にされるの? それが悪いことだって教えてくれないのはどうして?」
鼠「人一倍辛い現状を当たり前だなんて言われたくないよねー」
R「ね、鼠ィ! この子の気持ちに寄り添えるのなら、さりげなく自傷行為を止めて! 僕の言葉では届かない!」
A「決定は覆らないから。そんなつもりじゃなくたって、私が傷つけた事実は変わらない」
R「あのさ……反省して変わりたいと思っているのなら、わざわざ壊さなくたっていいんじゃない?」
鼠「根本が良くないというか、元の土台が悪いからさ。全壊しないと、まともに心機一転できないんだよ」
A「私が邪魔だから、私をいったん壊すよ。原型がなくなるほどバラバラになって、ようやくまともな人間になれる」
鼠「空が曇ってきた。そろそろ花火の感想を言ってあげて」
R「ゴロゴロ鳴っている。おーい、まずは降りてきてよ。雷は高いところに落ちやすいから」
鼠「もう落ちてるね。ほら、あっちとか、向こうとか」
R「この街のいたるところで落ちている?」
鼠「さっき王冠を売る屋台を見たね。王冠を買った人はどうするのか、きみはわかっているね」
R「……手間のかかる自殺をしやがって! なんで死ぬことばかり考えるんだよ! 立ち上がる努力ややり直す覚悟を持てよ!」
A「もう遅すぎる! やり直すには、自分をリセットするしかない!」
R「まるでこの世には自分の味方も友達もいないって開き直るなよ! こんなにも、生きづらさを抱えて君と同じ道を辿っている人がいるのに、なんで君はひとりぼっちなの?」
A「知るかー!」
R「うわー! 雷が落ちてきたー! ヤグラが一瞬で炎に包まれてバラバラになってしまった。わわ、あたり一面火の海だ」
崩壊はかならずしも悪いことではありません
新しく家を建てようとして
古い家を壊そうとするのは
なにが間違っているでしょう
原型もプライドもバラバラに
そうしないと進めないのです
罪悪感だけでは足りないのです
Å 「……あたり一面火の海だ。それで、私は私の破壊に成功したのだろうか」
鼠「内はほらほら、外はすぶすぶー」
Å 「ん? 大きな鼠が穴から顔を出している」
鼠「内はほらほら、外はすぶすぶー」
Å 「ふふ。かわいい……」
鼠「いや、なごんでないで、こっち来てよ」
Å 「あ、はい」
鼠「わかりにくくてごめんね。穴に入って。ついてきて」
Å 「よく見ると鼠の耳の猫だ」
鼠「歩きながら聞いて。結論を言うと、きみは自殺に失敗した。あの街は崩壊するから、きみは別の街へ移動することとなる」
Å 「修羅の世界に転生するの?」
鼠「修羅は闘いを好む人が向かうところだよ。衝突を好まず我慢してきたきみには向いていないよ」
Å 「そっか……」
鼠「花火、もう作らないの?」
Å 「うん。あれは気まぐれで、気晴らしだからだから」
鼠「素晴らしい。創作なんて気の向くままに作るのがいい。人間関係や約束ごとと違って、気が楽だろう?」
▲ 「私はこれからまともになるから、もう必要ない」
鼠「スッパリ断ったね。いさぎよいというか、決断が早すぎるよ」
▲ 「思い切りがいいだけ。どうせ、どちらを選んでも後悔する。わかっているんだ」
鼠「そっかー」
▲ 「切り捨てて、捨てたものを気にしない潔さがほしい。執着を断つ私の今後の課題だ」
鼠「ぼくはきみを応援したい」
▲ 「そうですか」
鼠「ぼくもかつてはみんなと馴染めていなかったみたいで、それはそれは苦労したよ。だから創作に逃げたわけでして」
▲ 「努力をしなかったんだね。とくに私たちは、理由がなければ愛されないし受け入れてもらえないのに」
鼠「そしたら作品を好きだと言ってくれる人と出会えたんだ」
△ 「……」
鼠「人柄を見られると、どうしたってぼくは距離を置かれてしまう。だからぼくの性格を無視して、作品をいいって言ってくれたことはどれほど救われたことか」
△ 「そっか。よかったね。うん、すごくいい…………いいなー」
鼠「悲しいのに笑って誤魔化そうとするのは癖?」
△ 「なんで悲しくなったんだろう。自分でもわからない。っていうか、笑っているのだから、気づかないフリをしてよ」
鼠「空気を悪くしたくないんだよね。だから本心を押し殺して、笑ってきたんだよね」
△ 「すべてが曖昧になって笑うと失うの区別ができなくなったとき、私は私ではないのだろう。まとも人間の完成だ」
鼠「どうかあなたの無理した作り笑いが、いつか報われますように」
人「だんだん周りが明るくなってきた」
鼠「そろそろ次の街だ。叫びたくなったら、なにか作ってよ」
人「気が向いたらね。さようなら鼠。私はこれからもひとりぼっちで頑張るよ」
鼠「ほんの少しだけでもいい。きみを受け入れてくれる人に出会えますように」
なんでも理不尽に当てはめるな
思いがけない幸福や
手にしたかった幸せのチャンスが
転がってきたのに
走り出せなくなるぞ
視野を狭めるな
立ち止まるな
振り返っても悲しいことしかないのだから
縋るならこの先の未来だ
希望は前にしかないと
自分を励ましつき進め
R「なんだか真っ白な空間にいるぞ? あの子、どうなったんだろう」
猫「あ、ドーモ。猫です」
R「あれ、この声……あ、耳が戻ってる」
猫「さっきは鼠だったから」
R「やっぱりさっきの鼠か」
猫「あの子は別の街に行ったよ。もし友達になりたいなら、これを着てごらん」
R「なにこれ。カンガルーの着ぐるみ?」
猫「人間相手だと、どうしても対等ではなくなるから」
R「たしかにあの子は自分が誰よりも下だと思いこんでいる。
猫「どうする?」
R「そうだな……まだ話し足りないし、もう少しだけ、あの子と接点を持とうかな」