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どんときる

あの頃は異常なまでに怯えていたので
笑いながら近づいてくる奴は
敵だと疑わなかった

卑屈で逃げてばかりいた
戦う勇気はなかったので
叩かれないように人から離れていた

右手のスコップは穴を掘るために
握りしめていた

いくら頑張っても居場所が見つからないなら
穴を掘って潜ろうと
そう思っていたはずなのに
いつの間にか死に様ばかり考えていた

自分で命を絶つのは怖いけど
たまにやれそうな気持ちの日がある

そういう時にかぎって呼び止められる

「まだ生きているね。えらい!」
「まだ死んでいないだけだよ」
「じゃあ死なないうちに海へ行こうか」

こうして連れ回される一日が始まる
いつもこうだ
この人は邪魔をする

海なんて一人でも見られる
どうせなら友達と見た方が楽しい
どうして友達を選ばないのだろう?

「この街は狂ってるね」
「そんなことないよ」
「でも、君はいつも押し殺しているよね」
「あなたは、そんなことないでしょ?」

真っ赤な汽車から街を見下ろす
この街は苦しい
でも逃げる術なんて知らない

「この街が終わったら何をしよう」
「え?」
「いずれなくなるでしょ」
「……ようやく死ねそう」


死にたい衝動はあるのに動けない

いつの日かこの衝動やその原因が
薄まってなくなると信じて生きてきた

辛い目に遭っても
押し殺してやり過ごしてきた
本当は限界だったのに

日々から感情が漏れ出しても
見て見ぬふりをして
さらに惨めになった

「まだ君は生きている。終わらないよ」
「そんなこと言わないで」

どうしてこの人は殺してくれないのだろう
この人にはたくさん迷惑をかけた
だからこの人なら殺されてもかまわない

それなのに、どうして優しくするの?
殺してくれないくせに
倫理観や価値観の違い?
なら、こちらが負けて当然だ

それでも縋ってしまう

「死んだ方がマシだって君は言った」
「うん」
「あの時、笑ってたんだよ」
「そうなんだ」

藍色の夜にこの人と出会った

あの日のことは知らなかったことにして
くたばっていく方が良いと言われたけど
簡単には忘れられそうにない

「でも、今の君は泣きそうだ」
「だから、今死んだら後悔するって?」
「うまく言葉にできない。ごめん」
「…………」
「生きてよ」

頷くしかなかった
この人には殺されない
なぜだろう
寂しかった

汽車の下で街のみんなが
同じ顔して見上げている

恨めしそうに
睨んでいる

灰色の空を鳥が横切った
自由を求めて叫んでいる

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