捜索編
第9話 だから気に病むことはない
「すみません、お待たせしました」
「おー、特に待ってないからいいぞー」
準備を終えて本部の前へ向かうと、既に俺以外の全員が揃っていた。感田中尉は俺の姿を確認すると「それじゃあ行くか」と歩き出した。その後ろを大人しくついて行く。
____転生者。
おそらく別の世界から来た人間のことをそう呼ぶのだろう。確信はないが心当たりはある。
兵器を持っている例の男がその「転生者」を探しているという情報はかなり大きい。俺と同じく別の世界から来た可能性があるということなのだから。
「(しかし……転生者がそう何人もいるものなのか……?)」
そもそも別の世界から来るということ自体非現実的な出来事なのに、それが何人もいるなんておかしくないか?
……いや、まずは男と会わないとな。考えるのはそれからだ。
「なあなあ、志葉」
そんなことを悶々と考えていると、前を歩いていたはずの不動少尉が俺の隣にやって来た。
「不動少尉殿、どうしました?」
「ルギエ特殊部隊に誠二がいたんだろ?どんな感じだった?」
そう言われて不動のことを思い出す。
ああ、そういえば不動少尉と不動は兄弟なんだったな。どういう事情で別れたのかは知らないが、同意のうえで離れたわけではないのなら当然気になるだろう。
「ああ、元気にやっていましたよ。……いや、あれは元気とは言えないか……」
「ええ?どっち?」
「身体に異常はないし精神も正常だったという意味です。ただ……あいつはいつも無表情だったし、他人と関わろうとしなかった。あいつがどういう人間かは俺もあまり分かっていません」
「んー……そうかあ」
「……何故あいつと離れてるんですか?」
ふと気になったことを口にしてみる。すると不動少尉は一瞬驚いて、でもすぐに「まあ色々あってな」と笑った。
……話す気はない、と。まあ別に構わない。不動少尉にとって俺はまだそこまで信用できる人間ではないだろうし。
「あ、そういやお前の特殊能力聞いてなかったな」
感田中尉が思い出したように俺のほうを振り向いた。
ああ、そういえば。話す機会が無かったから忘れてたな。
「……俺の特殊能力は……精神破壊です」
「精神破壊?」
「聞くだけで物騒な能力だね~。どんな感じなの?」
「自他関係なく精神を壊せる能力です。ただ、その為には対象の血を口に含まないといけませんが……」
普通は生まれた時に病院で調べて判明するらしいのだが、俺は捨てられていた為に能力が判明していなかった。初めの頃はキリル大佐が拾ったからという理由で特殊部隊に所属していたのだ。
しかし戦闘中、たまたま口に入ってきた自分の血を飲んでしまった時にその能力は発揮された。突然目の前が真っ暗になり、自分の身体が自分のものではないような感覚に襲われた。
それからしばらくの記憶はない。気付けば俺は敵味方関係ない多くの死体の上に立っていた。全身は血に塗れ、手にしていた銃剣には肉の塊が刺さっていた。だが殺した記憶は全くない。
一体どうしてしまったんだと慌ててキリル大佐に相談したところ、改めて検査してみたらこの特殊能力のことが判明したのだ。
確かに俺は元の世界でも、狂わなければ戦争なんてやってられないと思っていた。だから狂ったフリをしていた。例え滑稽だったとしても……そうしないと罪のない人を殺すなんてできなかったから。
だがまさか精神破壊なんていう能力を手に入れるとは……皮肉にもほどがある。
「……戦闘向きの素晴らしい能力ですね。足手まといになりかねない能力を持っている私からすれば羨ましい限りです」
「え?……あ、ああ……ありがとう……?」
暗い気持ちを隠すように軍帽を深く被ると、少し後ろで歩いていた来栖が俺を見ながら呟いた。
……今のは褒めた……んだよな?俺が能力を苦々しく思っていることを察して褒めてくれたんだろうか。前髪で片目が隠れているうえに表情が一切変わらないから分かりにくいが、天内と同じく良い子なのかもしれない。
「ちなみに中尉達の特殊能力はどういったものなんですか?」
気になって聞いてみると、感田中尉は「そういや教えてなかったっけ」と手を叩いた。
「俺は意思伝達。脳内に思い浮かべた相手に声を届けられる能力なんだけど……ま、それは今度見せてやるよ。で、熊耳が聴力強化。確か4000mくらい先までならどんな音でもはっきり聞き取れるんだっけ?」
「そうです!調子が良い時ならもっといけるかも!」
「不動は生物操作。動物と会話したり従わせることができる能力だ。この能力が中々助かるんだよなあ~」
「ああ……犬とか従わせたら追跡しやすいですからね」
「まあ、対象の動物に好かれないと従わせんのは無理だから簡単じゃないんだけどな」
「そんで、来栖の能力は未来予知。触れた相手の未来を予知することができるんだ。さっき本人は足手まといになりかねない~とか言ってたけど、むしろ俺達はその能力に助けられてるんだぜ?」
「……ありがとうございます」
感田中尉が軽く背中を叩くと、来栖は小さく頭を下げて感謝の言葉を述べた。
「……天内?」
さっきから俯いて気まずそうにしている天内に声を掛けた。
感田中尉が能力の紹介をする度に何故か落ち込んでいたように思う。実際、俺が声を掛けると驚いたように肩を震えさせた。
「あー……天内はあんまり自分の能力について話すのが好きじゃないみたいでな。俺達は「すげー助かる能力だ」っていつも言ってんだけど」
「で、でも……」
「別に天内が話したくないなら話さなくていいぞ。何が嫌かなんて人によるだろうし」
無理を強いてまで聞こうだなんて少しも思っていないし、むしろ無理に話して気まずくなるほうが嫌だ。
「……い、いえ!話せます!」
しかし天内は顔を上げて口を開いた。
「わ、私の能力は……その……。……て、天候操作というもので……」
「天候操作?」
「その名前の通り、天候を意のままに操れる能力だ。天内はいつも「他の人に比べて役に立たない能力だ」って卑下してるけど、雨降った時とか雪降った時とかすぐに晴れにしてくれるから助かってるんだぞ?」
「で、でも……戦闘向きの能力じゃないですし……」
「私もそうだから……気にしなくていい」
「文ちゃん……」
「俺も……戦闘向きの能力じゃないから役に立たないっていうのは違うと思う」
これは天内だけじゃなく、来栖にも言えることだが……。
「一見使えないように見える物だって、使い方によっては強力な武器になる。その辺の石ころだろうが木の枝だろうが目にぶっ刺せば相手の目を潰せるし隙は作れる。戦争において役に立たない物なんてほとんどない」
一番強くて役に立つのは銃だ。それは戦争を続ける中で嫌というほど学んだ。だがロシア兵と揉み合いになった際、銃も銃剣も使えなかった。そんな時、咄嗟に手にした土で相手の視界を奪って殴り殺した。
例え使えないと判断されたものであったとしても、そうして戦闘に役立ったり九死に一生を得ることだってある。
「だから気に病むことはない。天内の能力も来栖の能力も必要不可欠なものだ」
「…………ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます……!……えへへ……!」
来栖は相変わらず無表情だが、天内は嬉しそうに両手で頬を押さえてその場を回っていた。
表情の豊かさが見事に正反対だな……。
「志葉ぁ……お前、ずいぶんと
「たぶらかすって……俺は事実を話しているだけですが」
経験したことを元に話しただけで誑し呼ばわりされるなんて心外だぞ。
「ヒロ中尉!もう街に着きますよ?」
「お、もうそんなに歩いたか。それじゃあ街に着いたら写真を見せながら聞き込みをすること。不動は聞き込み先の犬を借りて追跡すること。いいな?」
「「はッ」」
全員が返事をすると、それと同時に各々聞き込みに向かった。俺も遅れないようにと歩き出す。……が、視線を感じて足を止めた。
振り返ると俺を見ていたのは熊耳少尉だった。
「……熊耳少尉殿、どうしました?」
俺の問いかけにも答えずじっとこちらを見つめる熊耳少尉。……もしかして、ちゃんと聞き込みをするか疑っているのか?
そんなことを思っていると、熊耳少尉はニッと笑って天内の肩を掴みながらこっちへ来た。突然のことに天内も戸惑っているようだ。
「希ちゃん、志葉くんと組んで聞き込みしなよ~!」
「えっ!?」
「あ、天内と……ですか?」
「別に一人で聞き込みしろって言われたわけじゃないし、希ちゃんと一緒になって困ることもないでしょ?」
「それはそうですが……。天内は良いのか?」
「わ、私はもちろん大丈夫です!嫌なんてこと絶対にないので!!」
「そ、そうか?それなら一緒に行こう」
「良かった良かった!じゃあよろしく~!」
熊耳少尉はそれだけ言うと満面の笑みで走り去ってしまった。
あの人はどうして天内と一緒にさせたがったんだ……?全く分からない。まあ別に天内のことは良く思っているからいいけど……。
◆ ◆ ◆
「みんな、朗報だ」
再び全員を集めたキリルは、いつもより少し口角を上げながら口を開いた。
「不動からの情報によると、例の男が八籏軍の本部から逃げ出したらしい」
「……その情報は確かなんだろうな」
まさかの情報にそれぞれが驚く様子を見せる中、ミラだけは通信機を睨みながらそう問うた。八籏人を嫌う彼女にとって、誠二の情報は鵜呑みにできるものではなかったから。
誠二はミラからの疑いにため息を吐きながらも「間違いありませんよ」と答えた。
「言われるまでもなく何度も確認もしたので。そんなに疑うのならミラ少尉がこちらに来て直接調べればいいのでは?」
「猿が舐めた口ききやがって……私はお前と違ってキリル様のお傍にいなければならないからできないんだよ。それくらい分かるだろ。猿程度の知能だから分かんねーか?」
「はっ。猿程度の知能なのはどっちなんですかね。貴女が居なくても大佐は困らないってことくらい誰だって分かってると思いますけど?」
「あ゛!?」
「まあまあ。その辺にしておきなさい、ミラ。君が八籏人を信用できない気持ちは分からなくもないが、不動も立派な軍人だ。彼の持ってくる情報は信用していいと思うよ」
「……失礼いたしました。キリル大佐殿がそう仰るのであれば」
ミラはキリルの言葉に頭を下げ、一歩下がった。やっと終わった尋問に誠二は面倒くさそうに再びため息を吐いた。
「大佐殿、どうされますか?我々も男の行方を捜しに行きますか?」
「そうだね、そろそろ動こうか」
エリザベータの問いかけに、キリルは椅子から立ち上がって頷いた。
「不動。君は引き続き八籏にいてくれ」
「……はい」
「そしてルギエ特殊部隊は例の男を八籏特殊部隊より先に見つけ確保すること。もし八籏特殊部隊と遭遇したら、大和以外の全員を殺すこと。いいね?」
「え……。えっと、志葉は生きて捕えるということですか……?」
「もちろん。まあ、怪我を負わせるくらいは問題ないからあまり気にせず戦ってくれ」
「は、はい……!」
キリルが大和を殺そうとしないことにイリヤは疑問を抱いていた。しかし前に言ったように、「兵器の情報を持っているから」と最もらしい理由を出されてしまえば何も言えなかった。
するとキリルは「ああ、でも……」と少しの間考え込んだ。
「…………」
「?キリル様、どうかなされましたか?」
「……いや、何でもない。情をかけすぎるのも良くないなと反省しただけさ」
サシャが不思議そうに聞くが、キリルは遠回しな言葉で誤魔化すだけ。その言葉の真意を知るのは本人だけだ。
「さあ、ルギエ特殊部隊よ_______出動だ」
血濡れのシヴァ 景 @sirona39
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