ささくれ

大隅 スミヲ

第1話

 東京都台東区。ここには誰もが知る動物園が存在していた。

 この動物園といえばパンダが人気であり、何年か前に双子のパンダが誕生した際には、人が詰めかけすぎて予約しなければ見学が出来ないほどとなっていた。

 しかし、パンダブームも過ぎ去り、いまは閑古鳥が鳴いている。

 もう一度パンダブームを起こしたい。そう願った園長は、日本最高峰の英知を誇るT大学に助けを求め、パンダブームを再び起こすべく、あるプロジェクトを立ち上げたのだった。


 そのプロジェクトのお披露目が本日行われる。

 マスコミ各社や人気配信者、インフルエンサーなどを招待して行われるお披露目会はパンダ舎の前で行われることとなっていた。


「これから何が行われるのでしょうか?」


 マスコミの代表としてTV局が派遣した女性レポーターが、甲高い声をあげて園長にマイクを向ける。


「我々はT大学と協力をし、パンダの話す言葉を日本語として表示させられるAIを開発したのです」

「おおー!」


 周りにいた人々からはどよめきが起きる。


「この研究は――――」

「長い前置きはいいとして、はやくパンダの言葉を日本語で表示させてください」


 レポーターにそう言われ園長は咳ばらいをすると、隣にいた教授に頷いて見せる。

 教授は机の上に置かれているラップトップのパソコンのエンターキーを力強く叩いた。

 ガラス張りのパンダ舎の上に掲げられた電光掲示板。

 そこに、ゆっくりとオレンジ色の文字が流れ出す。


『ただいま、AI解析中』


 文字が右から左へと流れていく。

 こちらの期待をよそに、パンダはタイヤにしがみついたり、ゴロゴロとしているだけであり、何かを喋っている様子はなかった。


「大丈夫なんだろうね、教授」

「はい。あとはパンダが喋るのを待つだけです」


 しばらくして、パンダが小さく野太い鳴き声のようなものをあげた。

 それが人類とパンダの歩む、新しい世界への第一歩となった。



 電光掲示板には、その四文字が流れていた。

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